本研究の目的は、SrTiO3表面上に形成される電場誘起2次元電子系における、磁気特性の解明と磁気特性発現条件の導出を、電気二重層トランジスタという手法を用いて行うことである。27年度までに、この系では30K以下の低温で磁性秩序に似たスピン整列現象が起き、これが観測される巨大磁気抵抗の原因となっていること、さらにこの現象はあるキャリア密度(もしくはゲート電場)以上でおこるラシュバ型スピン軌道相互作用を起源とすることを明かにした。28年度は背面ゲート法を組み合わせた新たな手法を導入することにより、電子状態をより能動的に制御し、上記発現条件の詳細を明らかにした。 巨大磁気的抵抗やその特徴的な異方性が観測されるSrTiO3表面の電気二重層トランジスタ(電子密度は、1平方cm当たり10の14乗個以上)に対し、基板の背面から別のゲート電圧を印加し、電子密度と面直電場を別々に制御することに成功した。その結果、観測される磁気特性は、試料にかかる電場を強くするだけでは増強されず、これに伴う電子密度の増加も不可欠であるという結果を得た。電場の効果(三角井戸ポテンシャルモデル)を含むバンド計算を行い、実験結果と比較したところ、電場によって分裂する3つの3d軌道(dxy、dyz、dzx)が交差するエネルギーと電子密度によって決まるフェルミエネルギーが近い場合にのみ、磁気特性が増強されることを突き止めた。これは3d軌道の交点でラシュバ型スピン軌道相互作用が増強されるという理論提案と一致しており、磁気特性の起源について定量的にも理解が進んだ。 さらに上記の実験に付随して、通常強磁性体薄膜でしか観測されなかった、プレーナーホール効果をSrTiO3表面の2次元電子系で発見した。これはこの効果が磁気秩序なしでもラシュバ型スピン軌道相互作用によるスピン整列で発現することを示唆する重要な結果である。
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