リチウムイオン二次電池の大容量化と急速充放電を可能にする負極グラファイト構造をターゲットとして、グラファイトのエッジおよび欠陥の構造がリチウム原子の拡散に与える影響を第一原理電子状態計算から検討した。 これまでの計算からグラファイトエッジに酸素終端を行うことで、エッジ近傍でのリチウム原子のポテンシャルエネルギーが低下し、拡散障壁が小さくなることが分かって来ていた。一方でこのようにリチウム原子のポテンシャルエネルギーが下がることでリチウム原子がエッジに吸着し、他のリチウムの充放電に伴う拡散を阻害する可能性がある。そこで、リチウムをグラファイトエッジに吸着した状態でのリチウム原子の拡散障壁の計算を実施した。リチウム原子をエッジの終端酸素2原子あたり1個のリチウムを吸着させたところ、拡散するリチウム原子のポテンシャルは浅くなるが、拡散の障壁となるようなポテンシャルの増加は見られず、印加する電圧を制御することで拡散に対する影響はほとんどないことが分かった。 さらに、酸化グラファイトを還元した材料ではグラファイトの欠陥とリチウム原子の相互作用が拡散障壁や吸着エネルギーに影響を与え、容量や急速充放電性能が向上していると考えられるため、様々な欠陥とリチウム原子との相互作用を計算した。計算結果からリチウム原子は吸着によって電子をグラファイトに供与するため、欠陥から離れたところにリチウム原子が吸着する場合でも、最終的に電子が占有する電子状態のエネルギー準位によって吸着エネルギーが大きく変わることが分かった。このことは欠陥構造を制御することでリチウムの吸着エネルギーを制御できることを示しており、大容量化につながる成果と考えている。
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