研究課題/領域番号 |
26390061
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
遠藤 理 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30343156)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | グラフェンナノリボン / 直鎖アルカン / 金(111)面 / X線吸収分光 |
研究実績の概要 |
炭素の単原子シートであるグラフェンを一定幅で切り出した物質であるグラフェンナノリボン(GNR)は、幅とエッジの構造によってバンドギャップを制御できることが予測されており、次世代デバイスへの応用が有望視されるナノ炭素材料である。本研究では金(111)面における直鎖アルカン単分子層の脱水素反応を利用し、エッジ構造を制御したGNRの作成法を確立することを目的としている。平成26年度は炭素のK吸収端近傍X線吸収分光(C K-NEXAFS)により、800 Kまでの加熱で炭化水素の脱水素反応が完全に進行してGNRが生成することを報告した。 C K-NEXAFSスペクトルを内殻励起の理論計算(GSCG3)を用いて帰属したところ、生成したGNRは半導体となると予測されるアームチェアエッジを有していることが示唆された。また走査トンネル顕微鏡の観察結果から、リボン幅は1.2 nm程度で短冊状の形状を有するGNRと、局所的に同様の幅を持ち枝分かれ構造を有するGNRが生じていることが明らかとなった。 エッジ構造制御法を発展させていくため、反応前の直鎖アルカンの単分子層中における分子配向に着目し、これを明らかにするための赤外反射吸収分光(IRAS)装置を導入した。アルキル鎖をもつ分子の単分子層で修飾した金(111)面を電極とし、硫酸水溶液中などで電位を掃引すると、表面上でイオンとの交換が起こり分子が脱離する。これを利用して吸着電位と脱離電位で差スペクトルを測定することにより、表面垂直な方向に遷移モーメントを持つアルキル鎖のCH伸縮振動を鋭敏に検出できる。この振動の波数解析による単分子層中の直鎖アルカンやアルキルスルフィドなどの炭素骨格面の配向決定を進めるため、電極界面その場観察IRAS測定用の電気化学セルを作成し、装置の立ち上げを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は金(111)面において直鎖アルカンの脱水素反応によってGNRが生成することを明確に示すことができた。本研究開始前の予備データでは、直鎖アルカン単分子層の脱水素が完全に進行するかどうかは明確ではなかったが、本年度行った研究により800 K加熱時には脱水素が完了していることが明らかとなった。一方加熱後の試料を室温に冷却すると炭素―水素結合が再生する場合があったが、測定槽内の残留ガスの影響を見積もることが困難であるため、次年度以降の課題となっている。また、初期吸着時の炭素骨格面の配向が反応過程に影響し、生成物であるGNRのエッジ構造が変化することが推測されていたが、今年度は炭素骨格面が基板に平行な配向(flat-on配向)の試料のみを対象として測定を行ったところ、アームチェアエッジとなることが明らかとなった。炭素骨格面が基板に垂直な配向(edge-on配向)の試料を出発とした場合について検討するため、アルカンの配向を制御した試料の作成を試み、電気化学環境でのその場観察IRAS測定によって分子配向を検討中だが、現在までのところ良好な試料を得るには至っていない。flat-on配向の分子の反応途中の測定を行う事により、鎖状分子であるアルカンが脱水素後鎖状不飽和炭化水素であるポリエンとなった後、比較的小さな芳香環骨格が生成し、さらに加熱することで、より多数の芳香環が連なったGNRへと成長していく過程であることが明らかとなった。ポリエンの二重結合におけるシストランス異性とGNRのアームチェアエッジ、ジグザグエッジの形態の類似性から、この段階の制御がGNRのエッジ構造の制御に関わる可能性があると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
直鎖アルカン単分子層は、これまで大気中で溶液からの吸着によって作成していた。この方法は簡便なため有用であるが、金基板への酸素の混入が避けられない、そこで、より厳密な脱水素反応の検討を行うため、超高真空での試料作成を行う。試料加熱反応時の真空度を向上させることにより、加熱後の再水素化の検討を行う。直鎖アルカンの真空蒸着法を利用することにより、GNRエッジ構造の制御の手がかりとなる、アルキル鎖がedge-on配向をとる試料の作製条件を探索する。導入したIRAS装置を利用し、電気化学的な吸脱着過程によって分子配向を決定する。また第一段階の脱水素後に生じる鎖状不飽和炭化水素の構造解析を行い、アルカンの分子配向との関連性を明らかにする。ハロゲンと反応させることにより、不飽和結合の状態をより明確にする。反応の第二段階においては、ポリエンがさらに脱水素し、炭素間結合が生じることで芳香族化すると考えられるが、ポリエン生成時に分子配列が乱れるため、隣接分子間でのスムーズな結合形成に影響を与えていると考えられる。配列の乱れは初期吸着状態に比べ、脱水素時に分子の一部が脱離し表面における分子数密度が低下することによって生じている可能性があるため、真空蒸着と組み合わせることにより、加熱時に分子を適宜追加供給する。ポリアセチレンをグラフェンに変換する反応において、ヨウ素が適切な脱水素促進剤となりポリアセチレンの形態が保存されるという報告がある。そこで第一段階の脱水素完了後にヨウ素の蒸着を行い、GNR化に与える影響を解析し、構造制御を試みる。
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