研究課題/領域番号 |
26390064
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
鈴木 勝 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (20196869)
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研究分担者 |
佐々木 成朗 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (40360862)
三浦 浩治 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (50190583)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ナノトライボロジー / 動摩擦 / エネルギー散逸像 |
研究実績の概要 |
本研究は,水晶振動子と原子間力顕微鏡(AFM)探針を組み合わせた新しいナノスケール摩擦を測定する実験装置を利用して,ナノすべりのエネルギー散逸と表面構造の同時測定によって摩擦機構の解明を目指すものである。特に表面分子の配置・構造や運動性と分子スケールの摩擦との関係に焦点をあてながら研究を進める。 平成26年度は,nNの微小荷重のもとでエネルギー散逸と表面構造の測定を可能とするために自己検知型AFM探針から光てこAFM探針への実験装置の改良を行った。平成27年度は,標準試料であるグラファイト基板の表面ステップ構造を取り上げて,エネルギー散逸像とトポ像の同時測定を行った。測定の結果,探針がステップ構造の近傍において平坦面と比較してエネルギー散逸が変化することを見出した。 さらに平成27年度から,分子運動性とナノすべりのエネルギー散逸の関係の焦点を当てて研究を進めた。平成27年度は,C60膜のナノすべりのエネルギー散逸の測定を実施した。測定の結果,C60膜の格子定数以下ではグラファイト基板と比較して,エネルギー散逸が大きい。これはAFM探針の引き摺りにより,C60分子が傾く・回転する等の運動を起こすことによる。平成28年度は,エネルギー散逸は分子の運動性から大きな影響を受ける期待されることからAu基板とC60膜の温度依存性の測定を行った。測定の結果,低温ではナノすべり距離が小さい領域ではエネルギー散逸が減少することが明らかになった。 以上,本研究によって(1)表面構造のナノすべりのエネルギー散逸に影響を与えること,(2)分子の運動性がナノすべりのエネルギー散逸に影響を与えること,が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は,(1)実験装置の改良と(2)ナノすべりのエネルギー散逸の温度依存性の測定を実施した。 (1)の測定装置の改良は,ナノすべりのエネルギー散逸の測定感度の向上のために,水晶振動子をATカット振動子から音叉型振動子に変更した。(2)については,Au基板とC60膜について室温から液体N2温度の範囲で温度依存性の測定を行った。測定の結果,それぞれのナノすべり距離が基板の格子定数より小さい領域でのエネルギー散逸は低温で減少すること,ナノすべり距離が基板の格子定数の程度で観測されるエネルギー散逸の極大は低温で顕著になること、が明らかになった。これは分子の運動性がエネルギー散逸に大きな影響を与えていることを意味している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究によって,(1)表面構造がナノすべりのエネルギー散逸に影響を与えること,(2)分子の運動性がナノすべりのエネルギー散逸に大きな影響を与えること,が明らかになった。 これらから,それぞれ次の2点が今後の課題となる。(1)の結果は,表面構造を作りこむことによってナノすべりのエネルギー散逸を制御できる可能性を示唆している。今後,エネルギー散逸の制御を目指して,ナノ加工表面での研究を計画する。(2)は,現在,分子の運動性の制御の一つとして温度をパラメーターとして研究が進められてている。今後は,分子の構造等を制御することで,ナノすべりのエネルギー散逸の制御を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は,動摩擦機構の解明のためにエネルギー散逸像とトポ像の同時測定を行うものである。特に,動摩擦と表面分子の構造と運動性に着目して研究を進める。研究を進める中で,表面分子の運動性の制御の視点から,Au基板とC60膜について室温から液体N2温度の範囲でエネルギー散逸の温度依存性の測定を実施した。測定からエネルギー散逸には大きな温度依存性があることが明らかになった。この研究を優先したために,エネルギー散逸像とトポ像の同時測定についてはやや遅れることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は,エネルギー散逸像とトポ像の同時測定の研究を進めるために,実験の消耗品費と共同研究者との打ち合わせ等のための旅費に使用する。
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