研究課題/領域番号 |
26390069
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
影島 賢巳 関西医科大学, 医学部, 教授 (90251355)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 原子間力顕微鏡 / ソフトマター / 粘弾性 / 誘電応答 / ガラス状態 / 相転移 |
研究実績の概要 |
本研究計画は、ソフトマターの微視的な系の物性を探索するための手段として、ナノメータースケールの力学検出が可能である原子間力顕微鏡(AFM)を土台として用い、2種類の異なる動的物性分析法である粘弾性計測と誘電応答計測の両方を可能にする複合手法とすることを最終目的としている。したがって、研究計画は、これまでに行ってきたAFMを用いた粘弾性計測の更なる高度化と、新たに取り組む、AFMを用いた誘電応答計測法の開発という、2本の柱からなっている。まず、粘弾性計測法の高度化については、従来の基盤垂直方向への探針変調に代わり、基板平行方向の高感度の変調計測が可能なように装置の検出系の改造を行った。これは、ガラス状態の計測などでソフトマターにシア(せん断)応力を及ぼして計測することが従来から行われていることを考慮し、そのナノメーター版をAFMで実現するためである。窒化シリコン製の親水性探針と同じく親水性のマイカ基板の間に拘束された室温の水について、シアに対する粘弾性を計測して緩和時間を算出し、シアによるひずみ速度との関係を調べたところ、緩和時間がひずみ速度に反比例するという特異なシア・シンニング現象が強く表れていることが、1分子層および2分子層の水について確認された。ナノメータースケールの親水性ギャップ間の水が室温でもガラス的である可能性を示唆する成果である。また、誘電応答計測については、電場印加用の電極を装置に組み込み、試行用の試料としては、ポリビニルアセテート(PVAc)とポリスチレン(PS)の相分離薄膜を作成した。基板垂直方向に電場を印加して、無機絶縁体であるダイヤモンドライクカーボンをコーティングした探針で誘電応答の周波数依存を計測したところ、PVAcの特徴的な緩和とみられるピークの出現を確認した。今後は相分離構造中の空間的位置による緩和ピークの違いなどを検証していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
粘弾性計測については、シア計測を実現したことでその可能性を拡張することができた。計測結果としても、応用上重要である親水性ギャップ中の水がシア・シンニングを呈することが水の層数に分解された形で示されたことは物理的に興味深く、意義あるものであると考えられる。また、誘電応答計測については、試料―探針相互作用力の中に試料の分極に依存する要素が含まれており、これがAFMで検出可能であることまでは確認できているので、おおむね良好な達成度と言える。
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今後の研究の推進方策 |
粘弾性計測については、基板面内2次元での位置を同定された形で粘弾性応答計測を実現することが次の段階である。そのためには、迅速に任意の点での周波数依存粘弾性計測を可能にする必要がある。本計画の先行研究としてすでに発表している、パルス応答計測が1つの可能性を示していると考えられる。ただし、この手法には未完成な部分も多い。具体的には、特に低周波域の粘弾性を計測したい場合に、装置の1/f的なノイズが長周期的な変動を引き起こし計測を妨げる度合いが増すことである。これを防止するには、装置のノイズを抑制することが必要である。また、AFMカンチレバーの不要共振を抑圧するためのQ制御回路がノイズを生みやすいこともあるので、この回路のS/N向上も不可欠である。次に、誘電応答計測については、これまでのところ試料の相分離構造が明瞭にイメージングされていないので、これを改善する必要がある。現在の装置では走査機構にセラミック製の円筒型圧電素子を用いているが、共振しやすいうえに走査範囲が狭い欠点がある。そこで、平行バネしきの走査機構を新たに製作し、走査運動の安定性と走査範囲の拡大を図る予定である。また、画像取得の際の検出感度を向上させるため、周波数変調式ではなく位相イメージング法を導入することなどを検討している。
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