高分子と液体の複合系は、特異的な非線形性がよく現れることが多いが、パラメーターの多い複雑な系分子動力学的なシミュレーションで明確な描像を得ることが困難であり、実験データの現象論的議論に留まっている感がある。 ここでは、人工関節の潤滑など応用的にも重要な高分子2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)が水和した系に、親水性のシリコン基板とAFMのガラスコロイド探針の間で周期的シアを及ぼし、シアの振幅を掃引することによって、粘弾性応答から算出した緩和時間の振幅依存性を求めた。その結果、振幅の値で区別される複数の領域でまったく異なった緩和挙動をする様子が観測された。全振幅が0.2-1 nmの範囲では、緩和時間が不規則で双安定的な振動をし、しかもその上限と下限の値のギャップが振幅減少とともに開いていく様子が見られた。これ以下で0.06 nm程度までの振幅では双安定的な振動は停止し2値的性格だけが残り、さらにそれを下回る振幅では2値的性質が消える。さらに、2値性が現れる領域では、各プロファイルはニュートン的なセグメントで多くが構成されている。このように、非線形挙動は、微視的にみるとニュートン的な線形挙動と、原子・分子レベルのスティック&スリップが複合して生じていることが示唆されたので、今後対照実験なども重ねて論文として発表する予定である。 全研究期間を通じて、研究の片方の柱であるAFMを用いた粘弾性計測による動的物性の探索では、特に流体や高分子・流体複合系の非線形性を分子レベルで示唆する非常に有意義な成果を得た。反面、外部電場による探針分極の変調を用いた誘電応答計測では、解釈の複雑なデータが得られており、今後の研究でそのメカニズムを解明する必要がある。
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