p型Si(100)、Si(110)基板上に膜厚0.8 nmと1.0 nmのSiO2薄膜をドライ酸化で形成し、これら試料の価電子帯スペクトルと内殻準位Si lsスペクトルをX線光電子分光法で測定した。膜厚1.0 nmのスペクトルから膜厚0.8 nmのスペクトルを、Si基板に起因するスペクトルで規格化して差し引いた差分スペクトルを、それぞれの基板のSiO2構造遷移層のスペクトルとして求めたところ、構造遷移層スペクトルに基板面方位による僅かな違いが現れた。16 eV付近のスペクトル強度が Si(110)の方がSi(100)よりも小さいことが分かった. 上記の強度差はSiO2酸化膜を特徴づけるランダムネットワーク構造のSi-O-Si結合角を反映するものと予想して分子軌道計算で考察した。計算では、Si-O-Si結合角を130-144度と変化させて局所部分状態密を求め、それに硬 X 線の光イオン化断面積を掛けることで 理論スペクトルを作成した。理論スペクトルは、Si-O-Si結合角度増加に伴い16eV付近のスペクトル強度が減少した。この理由は、Si-O-Si結合角を増加させるとSi 3s - O 2pxの原子軌道の重なりが大きくなり、一方Si 3s - O 2pzの重なりが小さくなり、これにより16 eV付近のスペクトルを構成する軌道間のエネルギー間隔が広がった(半値幅が大きくなった)ためと分かった。 解析結果と計算結果を比較することで、SiO2/Si(110)界面近傍に存在する構造遷移層の原子配列は、Si(110) 面の原子構造を反映してSiO2/Si(100)界面近傍に存在する構造遷移層よりSi-O-Si結合角が大きいということが明らかになった。
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