研究実績の概要 |
本研究課題では,半導体量子井戸中の電子を高強度テラヘルツパルスで移動させ,スピン軌道相互作用による実効磁場(内部有効磁場)で電子スピンを超高速かつ自由に制御することである.以上の目的を果たすため、平成27年度は以下のことを明らかにした. ①スピン制御は高強度テラヘルツパルスによって行うが、スピンを制御できるだけの十分な強度を有するテラヘルツパルスの発生を行った.また,M字型光学系と呼んでいる独自の光学系を考案し,幅広い励起波長で高強度のチェレンコフパルスが生成できることを明らかにした.[1,2] ②高強度テラヘルツパルス照射によるスピン制御を行うためにはスピンダイナミクスの時間変化だけなく,空間移動の様子をとらえる必要もある.我々はInGaAs/InAlAs 量子井戸構造におけるスピンの時空間ダイナミクスの計測を可能とする光学システムを構築した.③②に関連する内容で,モンテカルロシミュレーションによるスピン軌道相互作用の強い半導体中でのスピンの振る舞いについて調べ,有効質量の小さいInGaAs/InAlAs 量子井戸構造は永久スピン旋回状態を壊す要因となるDresselhaus三乗項の影響を低減でき,室温PSH状態を実現するのに適した構造であることを明らかにした[3].各要素技術が確立できてきたことから,平成28年度からは本来の目的であるテラヘルツパルス照射時のスピンの時空間ダイナミクスを調べる研究に着手する.
[1] 塩澤建人,森田 健 他, 第76回応用部物理学会秋季学術講演会,名古屋 (2015) [2] 塩澤建人,森田 健 他, 第26回光物性研究会 III-A93 (2015) [3] R. Kurosawa, K. Morita et al., Appl. Phys. Lett. 107, 182103, (2015)
|