高強度テラヘルツ(THz)パルスを半導体中の電子スピンに照射すると,その強い電場成分により電子スピンの高速ドリフト走行が生じる.特にスピン軌道相互作用が強い半導体中では,高速ドリフト走行するスピンに対して巨大内部有効磁場が作用し,スピンの高速回転が期待できる.本研究では,THzパルス発生系とスピンの時間分解光学系を組み合わせた独自の連結光学系を構築し,THzパルス照射下でのスピンの時間ダイナミクス計測を行う.THzパルスの偏光・強さ・波形,内部有効磁場の大きさ・向きと計測したスピンの回転角,移動距離の関係を明らかにし,スピンの高速回転を実現することを目的とした. 本研究の成果として,我々はパルス面傾斜法によるTHzパルス発生光学系を構築し、電場振幅が中強度のTHzパルス(~600 V/cm)を得た.また,電子スピンの時間ダイナミクスを観測する光学系も構築し,室温でのInGaAs系,GaAs系量子井戸中のスピンの時空間ダイナミクスを得た.また,InGaAs量子井戸中の電子g因子やスピン緩和の温度依存性を明らかにした. 実験だけでなく,モンテカルロシミュレーションによって室温永久旋回(PSH)状態の実現可能性,THzパルス照射下での電子スピンの時空間ダイナミクスについても明らかにした.我々の実験室で得られたTHzパルスではスピンを回転制御するには不十分であるが,さらに強い高強度のTHzパルス(> 100 kV/cm)では,予想どおり極限スピン制御・極限スピン輸送ができることを示した.
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