研究課題/領域番号 |
26390075
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 正裕 東京大学, 物性研究所, 研究員 (30292759)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 半導体レーザ / 利得スイッチング動作 / 超短光パルス / 光エレクトロニクス / 光学非線形効果 / 光源技術 |
研究実績の概要 |
H26年度は、強励起利得スイッチング動作による半導体レーザーからの極限短光パルス発生実験として、短光パルスを使用した光強励起によるレーザー発振実験を行い、発生する光パルスの特性測定・評価を精緻かつ系統的に行った。 光励起半導体レーザーには、分子線エピタキシー法により作製した利得導波型GaAs バルクレーザー及び3周期 GaAs 量子井戸レーザーを使用した。短光パルス励起光源には、自開発ファイバーレーザー光源(パルス幅 300 fs)及びモードロック TiSa レーザー(パルス幅 2 ps)を使用した。 GaAs バルクレーザーへの共振器一様励起において、高密度強励起では短波長側にスペクトル広がり持つ光パルス発生を観測した。この光パルスの短波長成分を抽出し、自己相関測定によりパルス幅を評価したところ、低温(5K)でパルス幅1 ps以下の超短光パルスが発生していることが分かった。 また、光励起をレーザー共振器導波路端面側より行う同軸光励起法による利得スイッチング動作実験も試みた。利得スイッチング動作から、励起光強度にはほとんど依存ぜず、共振器周回時間にほぼ等しい時間間隔を持つ短光パルス列が観測された。各光パルスのパルス幅と立下り時間はそれぞれ5.5 ps、2.6 psと評価された。観測された光パルス立下り時間は光共振器寿命時間より短く、この結果は集中定数型レート方程式では説明できないユニークな結果である。これらの成果は、Appl. Phys. Express誌に投稿・掲載された。共振器周回時間に対応する光パルス列の発生は、光パルスが導波路内部を伝搬していることを示唆している。そこで、共振器内部での光伝搬を考慮した伝搬型レート方程式を構築し、それを用いた解析を現在進めている。 なお、これらの実験は研究代表者所属先の大学院生の協力を得て推進している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、種々の電流注入型半導体レーザーに対する大電流パルス注入による利得スイッチング動作実験を実施する計画でいた。しかし、並行して進めていた光励起用半導体レーザー(まずは単一利得構造)が作製でき、また、合わせて開発していたより高強度光励起が可能なファイバーレーザーが完成し、H27年度に計画していた光励起利得スイッチング実験を実施する環境が整った。そこで本年度は、光励起実験に注力し、こちらを先行実施するよう計画変更した。特に、短パルスによる光励起実験では、利得媒体となる高密度電子正孔状態のインパスル形成とそのインパルス応答としてレーザー発振を観測することになり、時間応答現象の理解が簡単化できる利点がある。この点は、レーザー発振に関与する物理機構の解明を容易にすると期待される。 その結果は「概要」に記したように、手法の異なるどちらの光励起方法においても、強光励起下では通常のレート方程式解析では説明できない異常な短光パルス発生を観測した。さらに励起強度・環境温度依存性など出力光パルスの諸特性を系統立てて精緻に計測した。異常な短光パルス発生は、本研究の第1歩目の目標であり、今年度それを実現することができた。 一方で、電流注入用デバイスの設計、結晶成長・デバイスプロセスも並行して進めており、本年度は、半導体レーザー作製に必要となるデバイスプロセス開発を完了し、レーザー構造の試作とその基礎特性(電流電圧特性、cwレーザー発振特性など)評価まで進展することができた。 以上のことを踏まえ、当初の計画からの変更はあったものの、研究全体としては概ね研究目標達成に向けて順調に進んでいると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
光強励起による利得スイッチング動作にて、通常のレート方程式からは予測できない1psを切るサブピコ秒光パルス発生を観測することができた。この短パルスの発生機構を理解するために、さらに光励起条件を変えた実験を行い、この現象の普遍性と特異性を整理する。次年度は、励起光パルスのパルス幅をインパスル応答的励起から電流注入利得スイッチング動作に対応するサブナノ秒励起(ステップ応答的励起)まで変えて発生する光パルス特性を系統的に調べる。光パルスのパルス形状やパルス幅評価は主にストリークカメラにて行ってきたが、加えて高感度フリンジ分解オートコリレーター相関測定も試みる。 電流注入型については、レーザー構造の試作とその基礎特性評価まで進展しており、次年度より大電流超短パルス印加による利得スイッチング実験を開始する。単一電極型だけでなくマルチセクション型構造の試作も合わせて進める。可飽和吸収効果による巨大分極形成とそれに起因する超放射発生が報告されているが、その実験的検証を試みる。 強光励起による利得スイッチング動作からは、通常のレート方程式解析からは予測できない光短パルスが観測されている。これは光共振器内部での励起(利得発生)の局在性や光パルス伝搬が大きく関与していることを示唆している。そこで、理論側からはまず伝搬型レート方程式や多モードレート方程式による理論解析を行い、実験結果との比較考察を行う。この比較考察から利得スイッチング動作時の巨大分極形成の可能性や光短パルス発生への寄与にある程度の目星を付けた上で、分極形成効果を含むMaxwell-Bloch方程式を用いたシミュレーションへと進めていく。強励起利得スイッチング動作時における高密度電子正孔状態の凝縮相形成や光-電子相互作用に起因する巨大分極の形成を調べ、極短パルス発生機構との関連性を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画では、H26年度に電流注入による利得スイッチング動作実験を計画し、その電流駆動実験系構築に必要となる備品(広帯域rf増幅器, 約600千円)及び消耗品の購入を予定していた。しかし、「現在までの達成度」にて上述したように、H26年度は、光パルスを使用した光強励起による利得スイッチング動作実験に注力することにした。そのため、本年度は電流注入実験に必要となる物品類の購入を見送ることとなり、次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
現在、短パルス発生機構解明に適した半導体レーザー構造(光励起型や電流注入型)を設計し、ウェハー結晶成長とデバイスプロセスを進めている。電流注入型レーザーについても、H27年度には完成する予定であり、作製が完了後すぐに大電流超短パルス印加による利得スイッチング実験を開始したいと考えている。そこで、本年度見送った電流駆動実験系構築をデバイス作製と並列に進める。そのための備品・消耗品を備品費により購入する。 また、強励起利得スイッチング半導体レーザーパルスのパルス幅・形状などの光パルス特性を詳細かつ系統的に観測するために高感度フリンジ分解オートコリレーター相関測定系を新たに構築する。そこで必要となる光学部品類(特に高価なものは非線形結晶素子、精密光学ステージ類の購入を計画している。
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