高強度レーザーと物質の相互作用を理解することは、物質中の電子の運動を直接観測・制御するアト秒科学において中心的な課題である。強レーザー場中の電子ダイナミクスの第一原理計算のために、時間依存多配置ハートリー・フォック(MCTDHF)法が提案されている。従来のMCTDHF法は、計算コストが電子数に対して指数関数的に増えるために多電子系への適用は困難だった。私達は先行研究において、物理的に不活性なコア電子は平均場近似し、ダイナミクスで主役を演じるアクティブ電子を正確に記述する時間依存CASSCF(TD -CASSCF)法を開発した。TD-CASSCF法は従来のMCTDHF法より高速だが、全電子を正確に扱うのは困難である。例えば内殻電離過程に於いてはコア電子でも平均場近似は妥当でない。そこで2015年度研究でTD-CASSCF法を拡張し、より柔軟で系統的な行列式展開に基づく時間依存ORMAS(TD-ORMAS)法を開発し、多電子ダイナミクスのよりコンパクトな記述を実現した。これにより、多電子分子の高次高調波発生、多重電離や多チャンネル電離、内殻電離やオージェ過程の計算を可能にした。 さらに当該年度研究では、三次元多電子原子ハミルトニアンに対するTD-CASSCF法の実装を完了した。具体的には、動径方向:有限要素-離散値表現(FEDVR)基底と角度方向:球面調和関数基底の直積基底によって軌道関数を展開し、最も計算負荷の高い電子-電子相互作用計算のために高効率のPoisson方程式ソルバを実装した。さらに凍結コア近似を採用した場合の正しい「力の定理」を導出し、原子番号の大きな元素の第一原理ダイナミクス計算も日常的に行えるようにした。
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