本研究は,申請者が発明した「トリプルアクシコン光共振器」を用い,軸対称偏光で発振するパルス炭酸ガス(CO2)レーザーを開発するとともに,開発したレーザーを用いて炭素繊維強化プラスチック(CFRP)加工の基礎研究を行うものである. 昨年度発見された,アジマス偏光でのみ穴あけ性能が特異的に良い理由が判明した.特異的であったのはレーザーエネルギーがちょうど穴あけのしきい値に近い値であったことが原因である.入射エネルギー18mJという条件においては,アジマス偏光のみがしきい値を充分に上回り,他の偏光はちょうどしきい値程度だったため,アジマス偏光のみが容易に穴あけが進行した.入射エネルギーを変え,穴あけにかかる時間を計測したところ,アジマス偏光は30%程度小さいエネルギーで穴あけが可能であることがわかった. 電子顕微鏡による加工面の観察から,CFRPの繊維が切れたところがアンテナになり,レーザー光電場と結合していることが示唆された.アジマス偏光は繊維方向に対して電場が垂直であるため,炭素繊維と結合せず,反射して底の加工に寄与するため穴あけが早い. 精電舎工業のUPL-01試作機(波長10.6μm,最大100pps,エネルギー10~20mJ)の貸与を受け,トリプルアクシコン光共振器を組み込んだ.パルスエネルギー18mJ,繰り返し70pps(平均1.3W)の条件で,厚さ0.24mmの単相CFRP板の切断試験を行ったところ,アジマス偏光とラジアル偏光がほぼ同等の1.1mm/sで切断できたのに対して,ランダム偏光は0.6mm/sと性能が劣った.一見すると軸対称偏光の優位性が示されたように見えるが,ラジアル偏光とアジマス偏光は互いに直交しており,これらが同時に切断性能を向上させる理由はすぐには説明できない.今後は,軸対称偏光が切断加工に与える影響を多角的な試験により検証していくことになる.
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