研究課題/領域番号 |
26390089
|
研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
笠原 健一 立命館大学, 理工学部, 教授 (70367994)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 共鳴レーリー散乱 / 光アンテナ / 中赤外 |
研究実績の概要 |
H27年度は光アンテナ構造の最適化と量子井戸構造のサブバンド間遷移を使った中赤外光検出素子作製に向けた予備試作を行った。 光アンテナ構造の最適化ではAl2O3/SiC構造を作製してアンテナによる増強電界の深さ依存性を調べた。電界の増強度は基板に垂直方向の電界に対して応答する表面フォノンポラリトン信号(以下S信号と略記する)を観測することで行った。量子井戸構造では垂直方向の電界をアンテナによって作り出す必要があるが、S信号はフォノンと電磁波とのカップリングによって表面に局在して存在する縦波結合波であり、垂直方向の電界によって生ずる。実験ではAl2O3の層厚を変化させてアンテナとSiC間の間隔を制御し、各層厚でのS信号強度を観測した。SiCは結晶であるのでこれまでの非晶質であるSiO2に比べて明瞭なS信号が観測でき、増強電界の深さ依存性を調べる事ができた。 次に量子井戸構造の設計を行った。構造はAl0.4Ga0.6Asで挟まれた単一のn-GaAs量子井戸層(2x1017cm-3)から成る。量子井戸層の層厚は伝導帯に形成された第1量子準位と第2量子準位間の吸収波長が8ミクロンとなるように決めた。層厚の設計には有限要素層法の一つである選点法を用いて行った。MBEを使ったウェハー作製は研究協力者である和歌山大学に依頼した。その後、円形光スロットアンテナを搭載し、FTIRによる測定を行った。アンテナを搭載しない素子も同時に作製して比較した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
円形スロットアンテナによる電界増強をFDTD計算等で予め予測することは必ずしも容易でない。何故ならば、解析対象の素子のサイズが波長以下であり、またアンテナとしてAu等の金属を含んだ構造であるためである。したがって実験的に増強電界を調べる事は意義があり、これまで有効な方法が無かった。本方法ではSiC基板の上に原子層堆積法でスペーサ層(Al2O3)を形成し、その厚さをナノメータ精度で変えることでSiC基板の表面をアンテナから離す。そしてSiCからのS信号強度を測定するが、ナノメータの精度で間隔をアンテナとSiCの間隔を制御できるので増強電界の深さ依存性を実験的に求めることができる。その結果、Al2O3の膜厚が20nmまではSiC表面からのS信号が明瞭に観測でき、垂直方向の電界の二乗成分はその位置で32倍に強まっていることが推測できた。 単一量子井戸構造では、8ミクロンの光を吸収出来るように層厚を設計し、実際に円形スロットアンテナを搭載し、反射率測定を行った。今回の一次試作ではAl0.4Ga0.6Asバリア層のドーピングが最適化されていなかったが一連の素子作製までの目処をつけることができた。H28年度はこの部分の改善が必要である。
|
今後の研究の推進方策 |
H28年度は量子井戸構造、アンテナ直径の最適化を進める。電界増強度の測定結果から量子井戸の層数は3層を考えている。アンテナの共鳴波長はFDTD計算から求めることは上述した点から容易でなく、実験的に求めるのが近道である。NIMS、和歌山大学の共同研究者とは密接な協力関係が構築されており、年度初めにも第2次試作を行い、それぞれの最適値を求めていく。 本研究の中でアンテナによってS信号がどこに現れるか?言い換えればアンテナの端面反射に伴う位相変化がS信号の出る位置にどのような影響を与えるか必ずしも明確に分かっていないことが判明した。学術的にも意味があり、H28年度は併せてこの問題も理論的に解明していきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
アンテナによる電界増強を実験的に求める手法として原子層堆積法を使った構造を提案し、その有効性を示すことができた。本研究の中で考案された独自の手法であり、その効果を内外に示すために学会発表を行い、旅費が多めになった。
|
次年度使用額の使用計画 |
H28年度は量子井戸構造中赤外受光素子の実現に向けて材料費等が必要となる。
|