研究課題/領域番号 |
26390090
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
吉田 実 近畿大学, 理工学部, 教授 (50388493)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ファイバレーザー / 位相加算 / 位相結合 / コヒーレント加算 / 光ファイバ / ファイバ中の光位相制御 |
研究実績の概要 |
産業用に利用可能な高いエネルギー効率を有する、ファイバレーザーの高出力化技術として、位相結合あるいは位相加算の実用化のため、新規な技術を開発してファイバレーザーに適した光波の位相制御を実現することを目的としている。この位相制御技術は、産業分野に適用しやすい技術であることが大前提である。 ファイバレーザーは、基本的には高いビーム品質と励起光から出力光への変換効率の高さの両立が可能であると共に、空間光を用いないので従来のレーザーと比較するとメンテナンスフリーと言える使いやすさを有している。しかしながら高出力化技術は、先行した海外メーカーが保有する方法の改良に頼っていると言っても良く、重要な部品も海外調達となっている。そこで、これまでファイバレーザーの高出力化に利用されることの無かった光波の位相を利用したファイバレーザーの出力結合について研究を進めている。 これまでの研究では、ファイバの光路長を数十ナノメートルの精度で制御することに成功しており、分岐部の長さが40m程度の極めて長い二光路間において、零次の干渉計の構築に成功している。これまで、空間光を利用した位相加算などでは、ピエゾなどの応答性の早いアクチュエータを利用した、鏡やプリズムの位置制御によって干渉の制御が行われた実績はあるが、それらの多くは干渉計の光路長が波長の整数倍ずれた光路長差で行われた。 今年度の実績では、高価かつ高い電圧が必要であり、かつ高速応答を必要とするアクチュエータを使用すること無くファイバの特性を巧みに利用した光波の位相制御を実現可能とした。また、ファイバのような全長が閉じた伝送路による干渉計の構築は、機械的な振動などにより安定性の確保が難しいと言われていたが、ファイバ中に光を閉じ込めることにより音波の影響なども受けにくくなり、むしろ安定な位相制御が可能になった点も本計画以外にも新たな展開を考え得る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本計画では、位相結合あるいは位相加算による、産業用に利用可能な新たなファイバレーザー高出力化を最終目的としている。位相結合などは、光波の干渉を利用して二つの光波を単一の光波に束ねる技術であるため、位相のみならず偏波面の制御が不可欠となる。また、高出力光を扱うためのデバイスも必要となる。平成26年度の目標として偏波変動の抑制をあげており、下に述べるその対策を講じ、完全な成功を収めている。さらに、高出力用光デバイスとして溶融延伸型ファイバデバイス製造装置を立ち上げ、試作を開始した。 光波の偏波面は、横波である光の電界の振動方向であり、位相結合される二つの光波の偏光面が異なっていると波の位相が一致していても干渉が生じず複数の光を単一化して高出力化することができない。ファイバは曲がりや振動あるい温度変動によってガラスの屈折率が変化し、その結果ファイバを伝搬する光の偏波面が変動してしまう。従来技術では、これを補償するために動的な偏波制御器を用いていたが、光増幅器を反射型に変更し、反射部分の折り返し機構に偏波面を90°回転させる機構を設けることにより、反射部分から位相による光波の結合を行うファイバ型ビームスプリッタ(光の方向性結合器の一種)を利用した合波デバイスまでの伝搬時間よりも十分に低速な各種の揺らぎであればそれを補償することが可能となり、動的な制御機構が不要となった。 また、光波の位相制御には、従来技術であるピエゾ素子を用いた鏡の移動やファイバの伸縮を行うのでは無く、特殊環境用に開発された、ファイバのクラッドガラスにアルミニウムを直接コーティングしたファイバを活用し、ファイバに直接電流を流す方法により精密な温度制御を行い、極めて安定に数10ナノメートルの光路長制御に成功し安定な光波制御を実現した。 大出力用光デバイスは、ファイバの溶融延伸装置を開発し、その制御条件を絞り込んだ。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に、位相結合を髙安定に行う技術を開発し、短時間ではあるが16台のファイバレーザーを位相結合することに成功している。今年度は、目標である単一ファイバから5W級の出力を得て、非線形性やダメージなどの影響を確認する。その際に問題となるファイバヒューズなど、ファイバ自身が導火線のように端部から光源へ向けて連続してダメージを生じる不可逆的な破壊現象が課題となる可能性があり、これを解決する必要が生じる可能性がある。特に、非線形現象の中でも、ファイバ中を伝搬する光のパワーによってファイバの屈折率が変化し、その結果光が感じるファイバの長さ(光路長)が光パワーに依存して変化してしまうことによって光波の位相が変化し、これが原因で位相結合が破綻する可能性がある。特に、光出力による位相変化に起因して、動的な出力変動が発生してしまい、光出力を安定に高出力状態に固定できない可能性もある。この件に関しては、現時点で先行例が存在しないため、十分な検証が必要となる。 高出力化されたファイバレーザーの出力を測定する必要がある。特に、上記のように動的な出力変動を観測する必要がある場合、従来用いられていた、光を熱に変え、熱を電気に変換する熱電素子によるパワー計測では測定の反応速度が遅くて役に立たない。これを解決するため、本研究ならびに今後のファイバレーザー開発に広く応用可能な高出力用の高速応答性光パワー検出器を開発する。目標は100W級の光パワー測定である。最終的な光/電気変換にはフォトダイオードなどを用いるが、ワット級を越える光をフォトダイオードで検出可能な1mW程度のパワーに減衰させる必要がある。従来のファイバ型光減衰器では、吸収した光のエネルギーに対してそれを熱として放出する能力が低く、減衰器が破壊される。この問題を解決する。 また、可視光領域の位相結合に関しても、基礎的な検討を進める。
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