今年度(最終年度)は、前年度明らかにしたリンドープシリコンナノ構造体((NH4)2SiF6/POx複合微結晶)とボロンドープシリコンナノ結晶を光電変換層に用いた太陽電池を製造し、セル性能を評価した。まず、本研究期間内で確立した化学的手法によりシリコン基板上に(NH4)2SiF6/POx複合微結晶層を形成し、その表面に導電性ポリマー層(PEDOT:PSS)を形成した。その後、表面電極として導電性ポリマー層表面に櫛型銀電極、裏面電極としてシリコン基板裏面に銀電極を形成することで太陽電池を作製した。この(NH4)2SiF6/POx複合微結晶層を用いた太陽電池は、これまでに報告されているシリコン微結晶/有機ポリマーで構成された太陽電池に比べて4.45%の高いエネルギー変換効率を得ることができた。特に、この太陽電池は基板に対して数珠状に複合微結晶を形成したため、複合微結晶/ポリマー界面で解離した電子を効果的に裏面電極まで輸送したことで約30 mA/cm2の高い電流密度も得ることができた。一方、ボロンドープシリコンナノ結晶については、前年度確立した新規化学的手法により生成したナノ結晶をテクスチャー構造を有する基板上に塗布し、その表面にPEDOT:PSS層を形成した。表面電極には櫛型銀電極、裏面電極にはアルミニウム電極を用いて太陽電池を作製した。このボロンドープシリコンナノ結晶層を用いた太陽電池は、アンドープシリコンナノ結晶層を用いた太陽電池より高い2.34%のエネルギー変換効率を示した。しかしながら、この太陽電池は、基板上のナノ結晶層が不均一なために、前述の(NH4)2SiF6/POx複合微結晶層を用いた太陽電池の半分程度の変換効率しか得ることができなかった。以上の成果より、シリコンナノ結晶を用いた太陽電池の簡易創製技術の確立と高効率化に向けた最適な光電変換層を構築することができた。
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