研究課題/領域番号 |
26390106
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
四方 潤一 日本大学, 工学部, 准教授 (50302237)
|
研究分担者 |
南出 泰亜 国立研究開発法人理化学研究所, その他部局等, その他 (10322687)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | テラヘルツ波 / 高感度計測 / フィードバック制御 / 電子回路 |
研究実績の概要 |
本年度はフィードバック制御を導入したテラヘルツ分光・イメージングシステムの構築に向けて、前年度に得たテラヘルツ波発生・検出系を分光計測やイメージングに応用し、試料測定時のシステム動作について実験的調査を進めた。まず前年度にダイナミックレンジ最大20dBを得た連続テラヘルツ波発生・検出系においては、2波長励起光の波長自動掃引制御を進め、固体参照試料を用いて0.2~1.5THz領域わたるテラヘルツ分光測定に成功した。さらに、この測定系に試料位置の自動制御を加えて多波長のテラヘルツ波イメージングを行い、得られた透過像のコントラストや空間分解能が理論値によく一致することを確認した。また、パルス動作のテラヘルツ波パラメトリック光源についてはこれを用いて常温パイロ検出器の感度校正を行うとともに、動作特性の解明を目指して、前年度に実証した外部結合配置において結晶長を連続パラメータ化できる点に着目し、テラヘルツ波出力の結晶長依存性を測定した。その結果、テラヘルツ波出力は閾値結晶長を超えると指数関数的に増大し、その閾値結晶長とパラメトリック利得係数はテラヘルツ波周波数に依存することを明らかにした。この結果は、結晶長を変化させることによってテラヘルツ波出力を制御できることを示唆している。また、前年度得られた周波数範囲約1~3THz、ダイナミックレンジ最大30dBのテラヘルツ波検出系を用いて、吸収線幅の狭い気体試料である水蒸気の透過分光計測を行った結果、得られた吸収線の周波数はスペクトルデータベースとよく一致する精密な計測に成功した。これらの結果より、フィードバック制御型テラヘルツ波光学系の構築に不可欠なテラヘルツ波出力制御の方法として、テラヘルツ周波数の微小変化や結晶位置制御が有効であることを見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の2年目である平成27年度の研究計画では、フィードバック制御型テラヘルツ波検出のため、テラヘルツ波発生・検出系における動作特性を精密に計測し、安定動作・高感度検出に関わる重要パラメータを実験的に明らかにすること、および透過型配置の光学系を中心とするテラヘルツ分光・イメージング測定を通してシステム動作の実験的調査を行うことを予定した。上記の実績概要および以下の理由から、本年度もほぼ予定通り進展したと言える。まず電子回路系については研究協力者の異動があったものの入念な打合せを進め、フィードバック制御においては試料計測を通した光源や検出器の動作特性を調査することに加え、周波数掃引等を用いた光源の出力制御法が課題となることを明らかにした。そこで、まず連続テラヘルツ波光源と常温パイロ検出器を用いたロックイン検出系においては、課題であった波長の自動掃引を達成するため、波長制御信号と検出信号の取込み・同期化のアルゴリズムを作成して自動制御を行うことにより、上記の連続テラヘルツ波を用いた透過型配置による広帯域のテラヘルツ分光測定やテラヘルツ分光イメージングの基礎実験にも成功した。一方パルス動作テラヘルツ波パラメトリック光源と常温パイロ検出器を用いたテラヘルツ波発生・検出系においては光源の高出力特性を利用し、校正のとれた低感度テラヘルツ波検出器と併用することにより常温パイロ検出器の感度校正を行った。さらに、テラヘルツ波パルスの出力特性や安定性に関わるパラメトリック利得・閾値をブリルアン散乱抑制下で精密測定することに初めて成功し、基礎理論の妥当性を明らかにした。これらの調査を通じて光源・検出器の動作特性やテラヘルツ分光・イメージングの技術基盤を得るとともに、フィードバック制御機構を導入するために重要なテラヘルツ波出力制御法を新たに見出した。
|
今後の研究の推進方策 |
上述のように、本年度の計画であるテラヘルツ波発生・検出系の実験的調査、および透過型配置を中心とするテラヘルツ分光・イメージングにおけるシステム動作の実験的調査を行い、フィードバック制御に向けた準備はほぼ予定通り進展した。これに基づき、今後も引き続き研究協力者の助言・協力を得て電子回路系の試作と動作特性の実験的調査を進め、フィードバック制御を導入したテラヘルツ分光実験およびイメージング実験への発展を図る。まず検出感度が固定された常温パイロ検出器を用いたテラヘルツ波検出系においては、本年度に知見を得たテラヘルツ波出力制御法とテラヘルツ波光源の動作特性やテラヘルツ波検出器の校正データを基軸として実験的調査を進め、実験システムへの導入を図る。一方、検出感度が可変な方法として非線形光学効果(アップコンバージョン)を用いたテラヘルツ波検出の準備を進めており、感度特性等の実験的調査を行い、フィードバック制御システムの導入を検討していく予定である。これらを通じて、光源-検出器を一対とする従来の電子回路系からテラヘルツ波光源・検出系を取り入れた新しいフィードバック制御系へと発展させ、その制御方法を実験・解析の両面から研究する。さらに測定試料として損失の小さい参照試料から損失の大きい生体試料等への計測を進め、文献・データベース等との比較調査を通じてテラヘルツ波分光やテラヘルツ波イメージングにおける検出感度や計測時間と測定精度について実験的調査を進めていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度に使用額が生じた理由は、前年度と同様に主に購入した消耗品(光学部品や電子部品等)において価格推移等による端数額が生じたためであり、電子回路系の構成に必要な電子部品やテラヘルツ波光学実験に必要な光学部品等を中心に本年度の研究の進展に十分に活用できている。
|
次年度使用額の使用計画 |
本年度の実施内容・成果に基づき、次年度では当初計画したように電子回路系の製作および高性能化のための消耗品費として活用し、実験的調査を重ねていく予定であり、上記の少額の次年度使用額については電子部品費等に活用していく予定である。また、次年度も引き続き光学実験において近赤外の高出力パルスレーザ光を使用するため、励起レーザの光学部品やテラヘルツ波発生器の誘電体ミラー、波長変換用の非線形光学結晶等の光学部品の損傷等も起こり得る。その消耗度に応じて、必要性が生じた近赤外光学部品を中心に光学部品を購入する予定である。また本年度および次年度で得た成果を早期に積極的に発表するため、国内での学会発表の旅費使用を予定しており、成果を論文にまとめ積極的に発表行っていくため、英文校閲費や論文投稿料の使用を予定している。
|