これまでに開発したパルスレーザーを用いたナノ秒衝撃圧縮実験装置とラマン分光装置を用いて、衝撃圧縮下におけるペンスリット単結晶のラマンスペクトル測定を行った。その結果、衝撃圧縮下において、ペンスリット分子の分子振動に由来するストークスラマンスペクトルとペンスリット単結晶の格子振動に由来するストークスラマン及びアンチストークスラマンを同時に測定できることを実証した。なお、本実験システムでは、パルス幅6 ナノ秒、波長532 nmの単発励起光照射によってスペクトル解析が十分可能なS/N比のスペクトルを測定することが可能となった。前年度までの実験結果から、分子振動由来のピークについては圧力誘起のピークシフト量は振動モードに依存することが示されていたため、衝撃圧に対して明瞭にピークシフトが観測されるニトロ基由来の分子振動ピーク(1293 cm^-1)に着目して、そのシフト量から衝撃圧縮領域内部の平均衝撃圧力を求めた結果、約2.9 GPaであった。一方、同時に測定した格子振動に由来するピークについては、ピーク強度の明らかな変化が認められたものの、分子振動と比較し、ピークの圧力誘起シフトは明確ではないことが分かった。光学系の高度化によってスペクトルのS/N比が向上したため、常温常圧時の測定と同様に、衝撃圧縮下においても4組の格子振動ピークが観測できた。しかし、分子振動と比較してシフト量が小さかったため、圧縮領域の成分と未圧縮領域の成分をピーク分離することが困難であり、導出された格子温度が低くなる傾向が示唆された。圧縮領域の格子温度を正確に測定するためには、スペクトルの解析手法の高度化が重要であることが分かった。
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