研究課題/領域番号 |
26390116
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
長壁 豊隆 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 研究主幹 (80354900)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 高圧力 / 単結晶中性子回折 / J-PARC / JRR-3 / 相補利用 / 機能物性研究 |
研究実績の概要 |
本研究では、J-PARCのパルス中性子源に設置された特殊環境微小単結晶中性子構造解析装置SENJU(BL18)において、ピストンシリンダ型圧力発生装置の限界である3万気圧以上、及び1K程度までの低温下で単結晶中性子回折実験を可能にする技術を開発する。報告者は、定常原子炉JRR-3の角度分散型装置用に、大型単結晶サファイアアンビルと凹み付き超硬合金(WC)アンビルを組み合わせた独自の対向ハイブリッドアンビル(HA)方式の高圧力発生技術の開発を行ってきたが、上記のSENJUにこの技術を応用する。これにより、J-PARCのパルス中性子源とJRR-3の定常中性子源の中性子強度特性や測定原理の違いを相補的に活用し、高圧力が誘起する機能物性を探索、解明を目指す。 平成26年度は、まず、上記HAを使用するための圧力クランプ式非磁性小型高圧力セルの開発を行った。SENJUの中性子検出器配置を最大限に生かすため、開口角135°の2つの大きな窓を持つ構造で、高さ70mm、直径45mmと非常にコンパクトで低温への冷却も容易である。次に、SENJUにおいて10~20時間という現実的な測定時間で、特定の逆格子点強度について必要十分なシグナル強度を得るためには、JRR-3で通常使用する試料サイズ(約0.1mm3)の数倍程度が必要になる。これを実現するため、HAのキュレット直径を拡大して繰り返し圧力発生試験を行った結果、キュレット直径3.5mm、初期厚0.45mmのJIS2017のAl合金ガスケット、グリセリン圧力媒体という条件で3.1万気圧の圧力発生に成功した。この条件における加圧可能な試料体積は約0.4mm3となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のとおり、SENJUにおいて3万気圧以上で単結晶中性子回折実験を実現するための高圧力発生技術の開発の目処がついた。さらに、これらの技術を用いて、SENJUにおいて2.5K、2GPaという条件でCeSbのテスト測定を行った。その結果、I型、及びIA型の反強磁性磁気構造に由来する磁気反射を明瞭に観測することに成功した。これらの成果から、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
技術開発を継続して行い、SENJUにおいて安定して3万気圧以上の圧力下で中性子回折実験を実現するための技術の確立を目指す。特に、平成27年度は、対向アンビルの片側にWCアンビルを使用していることからSENJUの入射中性子ビームに含まれる短波長成分によるバックグラウンドの上昇が大きいため、これに対処する。具体的には、テーパー型のBN製入射中性子用コリメータや開発した小型高圧力セルの窓部分に取り付けるBN製スリットを製作し、試料以外のアンビル部分に入射する中性子ビームを可能な限り低減する。また、また、HAでは、圧力のモニターにルビー蛍光法を利用しているが、平成27年度中に、ポータブル式のルビー蛍光測定システムを完成させ、これをSENJUに導入する。これらの機器の開発・整備を行い、また、テスト測定において十分なS/N比のシグナル強度が得られる段階となった場合、正方晶層状化合物HoB2C2について低温高圧下の中性子回折実験を行う。この物質に対する報告者のこれまでのJRR-3での実験により、加圧に伴い電気四極子と磁気双極子間のフラストレーション状態が増強され、4万気圧以上で電気四極子秩序が完全に抑制された後、衛星反射を伴う新奇な磁気秩序相が現れることを見いだしたが、SENJUの実験により、この未知相の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、J-PARCのパルス中性子源に設置された特殊環境微小単結晶中性子構造解析装置SENJU(BL18)において3万気圧以上、及び1K程度までの低温下で単結晶中性子回折実験を可能にする技術を開発するが、その際、報告者がこれまでに開発を行ってきた定常炉JRR-3用のハイブリッドアンビル圧力発生技術を応用する。SENJUにおける技術開発の上で最も重要な項目は、加圧可能な試料体積をJRR-3の場合に比べて大幅に増強することであり、そのためには、キュレット直径サイズの異なった複数のHAについて加圧試験(破壊試験)を繰り返し行い、知見を得る必要がある。本年度、キュレット直径3.5mmφのHAを用いることで初期目標であった3万気圧の圧力発生を達成したため、当初予定していた数種類のアンビルの購入を見送った。
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次年度使用額の使用計画 |
3万気圧の圧力発生を達成したが、より高圧力、あるいは、より大きい試料を加圧するための条件探索のため、複数のアンビルを購入して加圧試験を行う。また、加圧試験に必要なガスケット等の消耗品を購入する。SENJU実験におけるバックグラウンドを低減させるためのBN製コリメータやスリットの製作を行う。ポータブルルビー蛍光装置を完成させるため、必要な部品等を購入する。
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