研究実績の概要 |
本研究では、J-PARC MLFに設置された特殊環境微小単結晶中性子構造解析装置SENJU(BL18)において、3GPa以上、及び1K程度で単結晶中性子回折実験を可能にする技術を開発する。これにより、J-PARCのパルス中性子源とJRR-3の定常中性子源の中性子強度特性や測定原理の違いを相補的に活用し、高圧力が誘起する機能物性の探索、解明を目指す。 これまでの研究開発において、SENJU用に2ヶ所の広い開口角を持つ小型ハイブリッドアンビル式高圧力セル(HAC)を開発し、アンビルキュレット直径3.5mm、JIS2017番アルミ合金ガスケット、グリセリン媒体の組み合わせで3.1GPaの圧力発生に成功した。磁気反射観測の可否を確認するための、少数キャリアー強相関電子系化合物CeSbをHACにセットし、2GPa下で測定を行った。その結果、2μB/CeのI型及びIA型の反強磁性磁気構造に由来する磁気反射を明瞭に観測することに成功し、MLFにおいて低温高圧力下の磁気反射の最初の観測例となった。さらに、JRR-3での実験で常圧下の磁気構造が判っているマルチフェロイック物質TbMn2O5について、HACを用いてSENJUで高圧下単結晶中性子回折実験を実施した。今年度は、実験においてBN製ノズル型入射コリメータおよびωXYZの4軸付き冷凍機を導入し、中性子ビームを極限まで絞った上で高圧セル中の試料の精密位置調整が可能となり、大幅なS/N比の改善に成功した。その結果、常圧の最低温相であるICM(格子不整合)相に変わり、2GPaでは(1/2,0,0.3)、3GPaでは(1/2,0,1/3)のCM(格子整合)相の存在を明らかにした。現在、これらの相の磁気構造解析を実施している。研究の展開として、別の圧力値での測定およびHACを用いた同一加圧条件下での誘電分極測定を計画している。
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