研究課題/領域番号 |
26390119
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
佐藤 哲也 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター, 研究員 (40370382)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ローレンシウム / 第一イオン化エネルギー / アクチノイド / 表面電離 / オンライン同位体分離器 / ランタノイド |
研究実績の概要 |
原子番号が100を超える重い元素は、重イオンビーム核反応によってしか生成することができない。生成した同位体はすべて短寿命であり、生成率も非常に低いため、その化学的性質は十分にわかっていない。原子の性質をあらわす最も基本的な物理量である第一イオン化エネルギーについても、これまでに測定された例はなかった。 本研究では、このような元素に適用可能な新しい測定手法を確立し、103番元素ローレンシウムおよび102番元素ノーベリウムのイオン化エネルギーを実験的に決定する。 今回、高温の金属表面で起こる表面電離過程に着目し、同過程における第一イオン化エネルギーとイオン化効率の相関関係を利用した手法を新たに開発することに成功した。本手法では、タンタルをイオン化表面に用い、希土類をはじめとする短寿命同位体をイオン化することで目的の相関関係を得ることにより、対象元素のイオン化エネルギーを求めることができる。 この手法を用いてローレンシウムのイオン化エネルギーを4.96 eVと決定し、最新の理論研究と比較したところ、ローレンシウムの化学的性質を特徴づける最外殻電子軌道が周期表からの予想と異なることを、初めて実験的に示すことができた。 本成果は、原子番号が100を超える超重元素領域で初めて原子の化学的性質に関する情報を得られたとして、Nature誌(T. K. Sato他 Nature, 520 (2015)209-211)に掲載されるとともに、同号の表紙を飾った。 また、本手法によりノーベリウムの第一イオン化エネルギーも決定することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の当初計画の通り、ノーベリウムの第一イオン化エネルギーの決定に成功した。得られた結果は、アクチノイドの特徴である5f電子軌道が完全に充填されることに対応したものであることを示すことができた。 開発した手法についてさらに検討を進めたところ、イオン化に係る金属表面温度に対するイオン化効率の変化が、対象元素の揮発性を反映する場合があることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
金属表面温度に対するイオン化効率変化を詳細に調べることで、対象元素の揮発性を明らかにできる可能性が出てきた。 本研究では、これまでにローレンシウムの価電子軌道が周期表からの予想と異なることが示唆される結果が得られている。この変化は、ローレンシウム原子の揮発性の違いとして現れると考えられるため、解析方法を含めてより詳細に検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
ローレンシウムの揮発性に関する研究計画を進めているが、イオン源技術を応用することでより効率よく詳細な情報が得られる可能性が出てきている。そこで、本来必要であると考えていたオフライン実験装置の構築を省略し、これまでに構築したイオン化装置を元に実験系の構築を進めている。 物品費を有効に活用するため、オフライン実験装置のための予算はオンライン実験に必要な標的槽の構築に向けて繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
現在オンライン実験用標的槽他の設計がほぼ終了した。今年度前半にローレンシウムを用いた本実験を行い、ローレンシウムの揮発性を明らかにする。 本研究で開発した手法は、113番元素への応用も期待できる。今年度後半にはモデル実験ととして短寿命タリウム同位体のイオン化実験を行い、実現可能性について検討する。
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