研究実績の概要 |
原子番号が100を超える重い元素は、重イオンビーム核融合反応によってしか生成することができない。生成した同位体はすべて短寿命であり、生成率も数分~数秒に一個と非常に低いため、その化学的性質はよくわかっていない。原子の性質をあらわすもっとも基本的な物理量である第一イオン化エネルギーについても、このような実験の難しさから、これまでに測定された例はなかった。 本研究では、こういった重い元素領域に適用可能な新しい測定手法を確立し、113番元素ニホニウムと似た価電子配置をとる103番元素ローレンシウムをはじめとする重アクチノイド元素の第一イオン化エネルギーの実験的決定を試みた。 本研究では、高温の金属表面で起こる表面電離過程に着目した。同過程における第一イオン化エネルギーとイオン化効率の相関関係を利用した手法を開発することに成功した。本手法を用いることで、103番元素ローレンシウムの第一イオン化エネルギーを決定することに成功した。この結果は、原子番号が100を超える超重元素領域で初めて原子の電子配置に関する情報を得られたとして、Nature誌(T.K.Sato他 Nature 520 (2015) 209-211)に掲載され、同号の表紙を飾った。また、さらに本研究を進めたところ、これまでに測定されていない100番元素フェルミウム、101番元素メンデレビウム、102番元素ノーベリウムの第一イオン化エネルギーを決定することができた。これらの結果は、ノーベルシンポジウム(NS160(2016年5月, スウェーデン))等の国際学会における招待講演で報告した。また、本研究をもとに、ローレンシウムの揮発性研究および原子のスピン決定に関する国際共同研究がスタートした。国際共同研究加速基金による助成を受け、H29年度にはこれらの研究を発展させる予定である。
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