研究課題/領域番号 |
26390126
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松尾 宇泰 東京大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (90293670)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 数値解析 / 偏微分方程式 / 構造保存解法 |
研究実績の概要 |
現代科学・工学の現場では,微分方程式の数値解法は欠かせぬツールであるが,近年,方程式の数理的構造を活用することで汎用解法を遙かに超える専用解法―通称「構造保存数値解法」を構成する試みが盛んに行われている.特に偏微分方程式に対しては,申請者自身による前研究において,有限要素法に基づく新しい構造保存数値解法の原理とそれに関連する基礎技術が得られており,これらは世界的にも有力なアプローチのひとつとみなされている.本研究はこの研究の流れをさらに加速させ,「計算コストを実用レベルまで低減すること」および「誰にでも使える手法として整備すること」により,真に実用的な「高速な構造保存数値解法」を構築しその応用を展開することを目的とする. 本年度は,このゴールを目指して,「不連続Galerkin法に基づく構造保存数値解法」に関する基礎検討,および「力学系理論に基づく差分スキームの安定性解析」に関する数学的考察を行った. 1つめ,不連続Galerkin法に関しては,これまで構造保存的となるスキームが構成可能であるか,(本研究者自身が本研究以前に行った基礎的検討を除いて)まったく分かっていなかった.今年度は,空間1次元の偏微分方程式に対して,既存の構造保存数値解法の枠組を不連続Galerkin法で再現可能であることを突き止め,その新原理の整備を行った.より具体的には,不連続Galerkin法を特徴付けるnumerical fluxを,構造保存的に構成可能であることを示した. 2つめ,差分スキームの安定性解析に関しては,前研究により,非常に基本的な散逸系に対しては,拡大位相空間の考えを用いてLyapunov理論が使えることが示されていた.今年度は,適応刻み幅制御を行った場合のLyapunov理論を新しく構築した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
概要に記したように,本年度の主な進捗は,「不連続Galerkin法に基づく新原理の開発」および「力学系理論を用いた安定解析技法の確立」の2点である. 前者においては,空間1次元の場合には,保存・散逸いずれの場合にも基本的な原理が開発できたといえる.この意味において,当初年度の目的はほぼ達している.このとき,基本的な境界条件(Dirichlet,Neumann,周期等)に対する対応もほぼできている. 後者は,本来は2年次以降に予定していたものであったが,共同研究者(指導学生を含む)との作業が予想以上に速く進み,前倒しして本年度に成果として一部報告できたものである. 以上より,本課題は当初の予定よりも速いペースで推移しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
不連続Galerkin法については,本年度の研究により新原理が整備され,数値実験等によりその実用性も確かめられた.このことにより,不連続Galerkin法に基づく構造保存解法は有望であると考えられる.次年次以降はこの流れを推し進め,空間2/3次元の場合を含めたより応用の現場に近い問題に対して,この構造保存数値解法の枠組を整備し,またHPC的な観点からその高速化を狙っていくことが目標となる.HPC技術との組み合わせはまだ未知数の部分があるが,初年度に当初計画を越える進捗があり若干余裕が生まれたため,今後は構造保存数値解法に適用可能なHPC技法の精査を始め,次年次に具体的な適用を狙っていく. 力学系理論による安定性解析については,次元が高い場合の多段スキームの解析を,引き続き行っていく.ここで言う「次元」とは,空間離散化して得られる常微分方程式の次元のことであり,一般には数百を超える数であるから,可視化による力学系構造の理解が困難であり,数学における高次元力学系の理論の援用など,新しいツールを入れていく必要がある. 上記2つが軌道に乗り次第,数学的保証,パッケージ整備などを進めていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定では,研究を遂行するために数値計算に必要な備品等を購入する予定であったが,当該年度は数学的基礎研究が予想以上に進展したためそれに注力し,最低限行った数値計算に関しては既存設備でまかなえたため,残額が出た.ただし,残額は当初請求金額の1割程度であり,概ねに予算は適切に執行されている.
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次年度使用額の使用計画 |
本研究の二年次以降においては,より大規模な数値計算を行っていく.初年次の若干の残額については,二年次における備品購入の増強に充てる予定である.
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