研究実績の概要 |
平成27年度は,主にMaass波動カスプ形式,より正確に,上半平面上の実解析的保型形式(特に,全モジュラー群や低いレベルの主合同部分群に関する上半平面上の実解析的保型形式)で,Hecke固有カスプ形式になっているものについての数値計算に取り組んだ.このような対象は具体例を挙げることすら困難であり,数値計算からのアプローチは有効である. この数値計算に取り組む動機は,Hecke固有形式となるMaass波動カスプ形式に,偶Artin表現が伴うだろうという,広く信じられている予想がある.前年度考察した,重さ1の正則カスプ形式でHecke固有形式となっているものに奇Artin表現が伴うというDeligne-Serreの定理があるが,その偶表現版が上記の予想である.しかし,まだ十分な状況証拠が揃っているとも言えず,予想とは書いたが,正確な主張すらいまだにないと思われる.そのため,近似を伴う数値計算であっても,このような数値計算に取り組む重要性はあると判断した. 当該年度は特に,Hecke固有Maass波動形式のBessel関数展開の係数が,Hecke固有形式となっていることから,ある反復計算で近似計算できるということに基づいたアルゴリズム(Stark, Hejhal, Arnoら)の実装を,数論計算用パッケージpari-gpを用いて行った. しかしながら,当該アルゴリズムが初期値や計算精度に鋭敏であることなどから,先行研究の数値計算結果を再現することも困難であり,所期の成果を上げたとは残念ながら言えない.
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