研究実績の概要 |
本研究の目的は、簡約線形代数群の数論的部分群による算術商に対し、リシュコフ領域を経由して基本領域を構成するという新しいアプローチにより、基本領域構成の一般論と精確な具体例を与えることであった。構成のもとになったアイデアは、正定値実2次形式におけるボロノイ簡約理論のリシュコフによる定式化である。古典的理論をもとにした研究により、研究代表者は平成26年度に出版した論文において、代数体 k 上で定義された一般の等方的簡約線形代数群 G に対し、極大放物的部分群 Q を固定したときにアデール群 G(A) 上で定義されるある種の算術的最小関数を用いて、R の類似 R(G) を構成し、次の二つの命題を主結果として示した。 (1) R(G) には群 Q(k) が作用し、その作用に関する基本領域は G(A)/G(k) の基本領域でもある。 (2) G(A) 上の算術的最小関数は R(G) の境界でのみ極大値をとる。 同論文では G の類数が1に等しいという仮定のものとで、R(G) の具体的構成とR(G)/Q(k) の基本領域の計算方法についても考察し、とくに基礎体が有理数体で G が一般線形群の場合には、R(G) は元来のリシュコフ領域のあるファセットと同一視でき、この方法による基本領域の構成はコルキン-ゾロタレフによる構成と一致することを示した。平成27年度と平成28年度は引き続きこの研究を進め、G の類数が1より大きい場合の R(G) と R(G)/Q(k) の記述を, 大学院生の Weng Tim Lee と共に調べ、さらに一般線形群で基礎体の類数が1より大きい場合について、基本領域の構成方法を具体的に示した。これはコルキン-ゾロタレフ簡約理論の任意の代数体への拡張を与えており、この分野における新しい知見と技法を提供する。
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