研究課題/領域番号 |
26400013
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
井原 健太郎 大阪大学, インターナショナルカレッジ, 准教授 (00467523)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | multiple L function / multiple zeta values / elliptic modular form |
研究実績の概要 |
本研究の目的は, 従来の1変数保型 L-関数の多重化「多重保型 L-関数」を導入しその特殊値(周期)が生成する代数「周期代数」の構造を調査することである. その考察の一つとしてまず, 重さ2, (比較的小さい)レベルNの保型形式に付随する多重 L-関数の周期を計算機を用いて具体的に高精度で計算し, 周期間の線形関係式, 代数関係式を具体的に調査した. さらにその観察から重さ2, レベルNの周期代数の定量的な分析(各斉次部分空間の次元や, 代数生成元の個数を観察)を試み, 部分的な予想式を得るに至った. まず, 得られた線形関係式には, 多重 L-関数の反復積分表示等の基本的な結果から比較的簡単に証明が可能な族が存在する一方で, その出どころが不明な関係式が存在することも分かった. また, 今回の計算では有理数体上にて周期の線形関係を考察したが, 有理数体の有限次拡大体上での線形関係が存在するという興味深い例も見つけることができた. また, 一般的な代数構造の観察として, レベルNにより周期代数の構造が大きく異なることが分かった一方で, 異なるレベルでも代数構造が同型になる場合も頻繁に起こることが観察できた. 多重ゼータ値の生成する代数の場合, 周期代数は自由代数(多項式環)になると予想されている. これは対応する混Tateモチーフの淡中Lie環の高次のコモホロジーの消滅性から, そう予想されている. 一方, 今回の計算では周期代数が無限変数の多項式環と同型と思われるレベルがある一方で, 多項式環をある斉次関係式1本で割った環と同型と予想される例も観察でき, やはりレベルによって自由性も大きく異なるようであり, その理由解明はとても興味深い問題であるように思われる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までのところ概ね計画調書の1年目の計画に沿って, 研究を進められている. まず計算機関連機器や利用ソフトウェアを購入したり取り揃えることで, 計算環境を研究計画に沿う形で整えられた. そして保型形式の重さが2の場合の, 計算機を用いた周期の計算やその間の関係式の調査を実施した. いくつかのソフトウェアの組み合わせを要する計算になったが, 想定していた計画から大きく外れることはなく実施できており, 有意義な実験観察結果や, 想定していなかった興味深い新しい現象が観測できている. 本研究に関連する, 他の研究者による講演発表や関連する研究集会への参加を通して, 最新の研究内容や情報の収集, ならびに新たなアイデアや着眼点を得るのに利用した. また研究の進展状況を, 専門家の集まる集会で講演する機会を得て, 本研究のみならずこれまでの予備的研究結果を紹介することができた. また, 直接的に関連する研究を行っている研究者を訪ね, 現在研究中の内容についての議論や, 自分の研究状況の説明やお互いの研究の問題点や関連性, および今後の展開について議論を行うことができた. その研究者の結果と自分の計算結果とが合致せず, 矛盾があることがあったことから, 議論を続けた結果, 相手の研究結果の誤りを発見, 訂正することができた. 保型形式の重さが2の場合の今回の周期計算の結果について, 内容の論文への掲載については計画をしているところである. 掲載にあたりもう少し広範囲のレベルでの計算結果を補充し, さらにそれに理論的な考察, 可能な限りの証明を付けて, 区切りのよい段階での掲載を予定している.
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今後の研究の推進方策 |
数値実験に関しては, 保型形式の重さが2より大きい場合の周期計算をどのように行うかという技術の理論的な開発, そしてより広範囲のレベルを走らせた場合の周期計算ならびにその間の関係式の探索が次の課題になる. 多重保型 L-関数の反復積分表示を応用し, 保型性と被積分関数の特殊性を利用して, 周期間の関係式族を証明することについてはまだ十分な考察が行えていない. また, 積分の反復数に関する帰納的な構造を利用したり, 被積分関数への Hecke 作用に着目して, 周期へのHecke作用を考えた場合の考察も今後の興味ある問題であり, 取り組みたいと考えている. 今のところこれらレベルによりなぜ代数構造の差異が生じるのかという問いについては説明がしがたいが, とても興味深い現象であると思われる. もう少し大きいレベルまで計算範囲を延ばし, 合同部分群Gamma_0(N)の構造(種数やカスプの個数など)との関係がないかを考察してみる必要があるかと思う. 周期代数の構造に関係して考察すべき問題と考えているものは, 具体的に, (1)Fricke対合とシャッフル積からくる周期関係式, (2) 合同部分群の構造, つまりモジュラー曲線の基本群の構造からくる幾何学的な周期関係式族, (3) 二つのレベルに約数の関係が成立するとき, 周期代数の間に誘導される自然な包含関係(レベルフィルター)の有無や, そのギャップの測定, などである. これらの考察と, 数値実験結果を照合し, 加えて, よく知られたモジュラーシンボルの理論と, その非可換化という視点からも, 周期代数の構造を解析したいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度内に於いて、本研究に関連する研究者を招いての講演会、研究討論会を計画し、そのための旅費と謝金として、当該予算を確保していたが、招待者との年度内での日程調整が折り合わず、年度内実施ができなかったため当該予算の執行ができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度内に実施できなかった、本研究に関連する研究者を招いての講演会、研究討論を平成27年度内に再度計画し、そのための旅費と謝金として、当該予算を執行する予定である。
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