研究課題/領域番号 |
26400020
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
中島 匠一 学習院大学, 理学部, 教授 (90172311)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 円分体 / 類数 |
研究実績の概要 |
本研究の対象は、代数的整数論で重要な役割を果たす円分体のうち、素数ベキ分体の類数(のマイナスパート)である。素数ベキの値が大きくなるとともにこの類数は急激に増大することが知られているが、本研究では(類数の大きさではなく)類数の素因子に注目した。類数の素因子としていろいろな素数が現れるわけだが、それらの素数には重複がないのではないか?、という問題提起がなされていた。代数的整数論における「解析的類数公式」というものを利用すると、目的の類数を個別に計算することはできるが、その「素因数」を明示するような結果は知られていない。その結果、類数の素因子の分布を理論的に調べるのは(現時点では)非常に困難である。したがって、本研究では、まず最初に数値実験を行うこととした。つまり、ある範囲の素数ベキの値について、その素数ベキ分体の類数を解析的類数公式によって計算し、類数の素因子について調べた。この計算の実行においては、 (1) 類数が極度に大きな整数であること (2) 実際に素因数分解が計算できる整数の大きさには限界があること という2つの困難がある。困難 (1) については、金沢工業大学の谷口氏が素数分体の類数の計算用に作成したプログラムを素数べき分体の場合に拡張してもらうことによって対応した。また、困難 (2) については、「(2つの類数の)素因数が重複しない」という性質を「(2つの類数の)最大公約数が 1 である」という性質に言い換えて、後者の性質の正否を調べることで対処した。これらの研究を実施した結果、素因数の重複に関する仮説は「ほとんど正しい」ということが検証されてきている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度までの研究で、類数に関する最新の研究結果を調査したり高性能の計算機を導入することで、類数の数値実験はかなりの程度進展させることができた。その結果、類数の素因子は重複しない、という仮説を、実験した数値の範囲で「ほとんど」確かめることができた。しかし、その過程で、仮説への例外が1組だけ見つかった(これが「ほとんど」と記述した理由である)。この「例外」の存在により、当初想定していたような「仮説の証明」は不可能であり、仮説の修正が必要なことが明らかになった。現在は、仮説の修正の仕方を模索していて、そのための試行錯誤を行っている状態である。
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今後の研究の推進方策 |
上に述べたように、当初の目的であった仮説自体の成立は否定されてしまった。しかし、数値実験の結果として、仮説に対する「例外」は非常に少数であり、多少の修正を加えた形での仮説は成立すると期待できる。具体的には、例外は素数ベキが 2 のベキのときだけ生じているので、「素数ベキが奇数であるときには、類数の素因子は重複しない」という主張は正しい可能性が高い。今後は、数値実験や理論的考察を通じて、このように修正された仮説の正否を検討していく計画である。また、もとの仮説自体が「ほとんど」成立していることに注目すると、仮説に立脚した応用がありうることにも気付いたので、その方向でも考察を進めることを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度までの研究で、当初成立することを想定していた仮説に(非常に少数の)例外があることが分かったため、研究の方向を修正する必要が生じた。今年度は、仮説の修正処理の方法を模索していたために、成果の発表や新たな計算機の導入を行わなかった。次年度には、仮説の具体的な修正や、本研究のテーマである類数の新たな応用を推進する計画である。
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