研究課題/領域番号 |
26400025
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研究機関 | 東京女子大学 |
研究代表者 |
吉荒 聡 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (10230674)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | APN関数 / CCZ-同値 / 単項関数 / DHO(高次元双対超卵型) / quadratic 関数 / EA-同値 |
研究実績の概要 |
申請時に設定した3つの問題について次の成果を得た。以下、高次元双対超卵形を DHO と略記する。 「問題(a) 生成空間の次元に関する予想の証明(DHOの部分構造論の応用として)」に関して、bilinear DHO という重要なクラスについては予想が正しいことが確認された。「問題(b) 積構造の構成による分裂性の証明」に関しては、2015年度には大きな進展はなかった。 「問題(c) 既知の APN 関数間の同値性の完全決定」に関して、完全な解決を見た。既知の APN 関数の無限系列は、quadratic 関数に(CCZ-)同値なものと単項式に同値なものとに大別される。従って、問題 (c) は(有限個の例外を除いて)次の3種類の場合に分かれる。(c-1) 二つのquadratic APN 関数 (c-2) quadratic APN 関数と単項 APN 関数 (c-3) 二つの単項APN 関数。(c-1) の場合、一般に quadratic APN 関数が CCZ-同値であれば、より計算的に確認しやすい、EA-同値となることが知られており(Yoshiara, 2012)、原理的に解決している。(c-2) の場合、2014年度の研究により、一般に quadratic APN 関数が単項関数に同値であれば、Gold 関数という最も標準的な APN 関数に EA-同値であることが示されていた。2015年度の研究により、(c-3) の場合の強力な一般論が得られた。すなわち、単項 APN 関数たちが同値である条件は、「これらの関数のべき指数が、定義体の大きさ引く1を法として、一致するかまたは互いの逆数となる」であることが示された。この一般論から、既知の単項 APN 関数間の同値問題が初等的整数論の問題に翻訳され、完全に解決された。また (c-2) の場合の解決も簡略化された。鍵となるのは、「単項式の自己同型群に含まれる大きな位数の巡回群が、自己同型群中で互いに共役となる」という事実である。この事実は、巡回群の中心化群を調べることから証明できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
具体的研究課題として設定した3つの問題(問題 (a),(b),(c))のうち、すべての問題に対して既に一定の成果を挙げた。 特に問題(c)に関しては、当初の見込みを超えた成果が得られた。すなわち、将来発見される APN 関数の新たな系列に対しても有効に適用される一般的結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
2014年度、2015年度の研究により、当初設定した3つの問題のうち、問題 (c) はこれ以上望めない形で解決した。 問題 (a) に関しては、bilinear とは限らない一般の場合が問題となるが、一般に、単連結 DHO が bilinear な部分 DHO の直和に分解できるかどうかを吟味し、そして帰納的な方法が適用できるかどうか考察する。 問題 (b) に関しては、個別の DHO やその補空間に伴う個々の代数構造にこだわらずに、問題 (a) へのアプローチと同様に、部分 DHO への直和分解を通じて、帰納的にすべての DHO の分裂性が示せるかどうか考えたい。 更に、群環を用いた代数的手段の適用の可能性も探る。ここに、故平峰豊氏が開発した平面関数(奇標数の体上の APN 関数の類似)の研究方法が参考になると期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
家庭内の諸事情により、研究代表者が出張できる機会が限られたため。 また、サバティカル取得中であったため、自宅での自己研鑽に集中出来る時間が増加し、それに伴い研究が予想以上に進展し、論点を整理して成果をまとめた論文を作成するのに時間を割いたため、詳細な議論を点検する目的以外の研究集会に出席する必要性が減少したため。
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次年度使用額の使用計画 |
2015年度の研究により、3つの課題は、完全解決したり解決への見通しがついている。今後は「次の発展方向や残された部分の解決法などについて、詳細な話を理解できる参加者を中心とした小集会を開催して、その参加者と討議する」ことが研究の進展上最も重要になる。過去の吉荒のDHOに関する研究において、2016年1月に急逝された平峰豊氏を中心に発展してきた小集会「有限幾何とその周辺」の参加メンバーとの討議は、最も重要な示唆を与えてきた。しかし、2015年度以降、その多くが、勤務大学から引退する状況となり、参加旅費にも事欠く状態である。今後は、吉荒自身の出張ばかりではなく、彼らに対する旅費の支給にも、補助金の多くを支出する。また上述のように故平峰氏のアイデアは問題 (a),(b) の解決に参考になると思われるので、関連論文をまとめた PDFの作成や印刷にも使用する。
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