研究課題/領域番号 |
26400037
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
山崎 玲 (井上玲) 千葉大学, 大学院理学研究科, 准教授 (30431901)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | R行列 / クラスター代数 / 量子クラスター代数 / 可積分系 / 対称関数 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、クラスター代数の差分方程式と三次元多様体への応用に関する問題を考察することである。
28年度は以下の内容を論文にまとめた。円筒上の三角格子の辺に向きをつけたクイバーに作用するミューテーションの列としてクラスターR行列を導入し、これについて次の結果を得た。(1) クラスターR行列のクラスター変数(x,y)への作用は、A型アフィンワイル群の対称テンソル表現(変数q)に作用する幾何R行列と整合的である。特にy変数は二つのq変数の比になっている。クイバーに「凍った」頂点を加えるとクラスターx変数は変数qのタウ関数の役割をもつ。(2) y変数の非可換化である量子クラスター代数を用いると、クラスターR行列の自然な非可換化が実現できる。これと整合的な量子幾何R行列が、変数qに非局所的な非可換性を入れることにより実現できる。(3) 変数qのループ対称関数(ループ基本対称多項式、ループSchur多項式)の非可換化で、量子幾何R行列の作用で不変なものが定義できる。(4) 量子クラスターR行列がYang-Baxter関係式を満たすことは、クラスター代数の周期性に関する一般的な結果「クラスター変数の周期性、量子クラスター変数の周期性、トロピカルy変数の周期性の三つは同値」を用いて示される。その系として、量子幾何R行列がYang Baxter関係式を満たすことが分かる。
この成果について、第5回ワークショップ Combinatorics of Moduli Spaces, Hurwitz Numbers, and Cohomological field theories (Steklov1数学研究所他、ロシア)で招待講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の3年目である28年度は、二つの大きな問題(I)(II)のうち、(I)クラスター代数の差分方程式への応用について次のような進展があった。円筒上の三角格子に向きをつけたクイバー上に作用するクラスターR行列を導入し、量子クラスター代数を用いてこのR行列の自然な量子化を構成した。クラスターR行列は、やはり円筒上のネットワークに作用する幾何R行列と整合的で、この整合性を保ったネットワークの非可換化が可能であることを示した。さらに、量子幾何R行列の作用で不変な円筒上のループ対称関数を構成した。この成果は昨年度の研究に続き、ネットワーク上の有理写像の研究を進展させた。一方(II) クラスター代数の双極幾何への応用については、本年度には具体的な進展が無かった。
以上のことから、本研究の進展はやや遅れていると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は次の問題について研究を進める予定である。
非可換変数をもつネットワークについて:27年度の研究はトーラス上、今年度は円筒上のネットワークに関するものである。クラスター代数の方は円筒上でもトーラス上でも同様に非可換化を展開できるのだが、ネットワークの変数の非可換性は本質的に円筒の対称性に依っており、トーラス上で良い定義があるかどうか分かっていない。また、ネットワークに付随する様々な組み合わせ的対応の非可換化、幾何クリスタルの非可換化など様々な興味深い問題が考えられる。この研究をさらに進める。
いろいろなR行列について:27年度の樋上氏との共同研究で構成した量子R行列が、A_1型の量子群に付随した普遍R行列から構成できることをSchraderとShapiro両氏が最近明らかにした。彼らは量子R行列をA_n型の場合に拡張し、さらにIp氏は有限次元単純Lie環の場合に発展させた。これらをもとにした結び目不変量の研究、またクラスターR行列との関係について考察を進めようと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年度後半に急な予定変更が生じて出張を数件キャンセルしたため、旅費の未使用分が出て次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究を推進するため、主に情報収集と研究打合せを目的とした外国・国内の出張旅費に使用する予定である。さらに計算機の環境を整えるため高性能のパソコンを1台購入する予定である。
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