今年度得られた実績は、以下のとおりである。 (1)N-複体に関する研究 N-複体とは、鎖複体の一般化である。鎖複体とは写像の列で微分写像2回の合成が零となるようなものであるが、微分写像N回の合成が零となるような写像の列をN-複体と呼ぶ。N-複体は、1940年代に単体的複体のホモロジー研究に端を発するが、90年代に入って、表現論的な見地から研究されるようになった。 本研究では、三角圏によるN-複体のホモロジー理論へのアプローチを行った。すなわち、N-複体のホモトピー圏および導来圏を定義して、射影分解や入射分解など、通常の鎖複体における基本的な定理を示した。N-複体の三角圏構造は、懸垂がシフトと異なるなど、通常の鎖複体と異なる点があり、これらを明らかにすることで、N-複体のホモロジー代数が整備されたと言える。 基本的な枠組みだけでなく、入射ホモトピー圏のコンパクト生成性など、N-複体は通常の複体の性質を、ほぼそのまま有することが解ってきた。この観点から調べてみると、意外な事実が判明した。たとえば、加法圏のN-複体の導来圏は、適当な拡大圏の通常の複体の導来圏と三角同値である。環の加群のN-複体は、(N-1)次行列の2-複体と導来同値になる。 (2)三角圏の貼り合せに関する研究 三角圏の2つの部分圏は、完全列による拡大によって貼り合せることができる。貼り合せた圏は、両方の圏の性質を併せ持つので、便利な手法として多くの研究者が用いている。ところが、三角部分圏どうしの貼り合せは、三角部分圏になるとは限らない。本研究では、貼り合せが三角圏になるための必要十分条件を与えた。2つの圏が直交すれば、貼り合せが三角圏になることは知られていた。主定理は、古典的な事実が本質であったことを物語る。すなわち、貼り合せが三角部分圏になるための必要十分条件は、ある商圏において、もとの2つの圏が直交することである。
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