研究課題/領域番号 |
26400060
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
塩谷 隆 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90235507)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 測度距離空間 / 測度の集中現象 / オブザーバブル直径 / セパレーション距離 / ピラミッド / 等径定数 |
研究実績の概要 |
今年度は,測度の集中現象を基礎としたGromovによる測度距離空間の幾何学的理論について本を執筆し,ほぼ完成させた.ヨーロッパ数学会のIRMAシリーズに投稿し,レフェリーが通って,出版の契約を結んだ.後は細かい修正をした上で今年度(2015年度)前半までに最終原稿を提出する予定である. 測度距離空間の基本的な不変量であるオブザーバブル直径とセパレーション距離をピラミッドへと拡張し,極限公式を証明した. 与えられた空間列についてレビ族となるスケールオーダーと消散するスケールオーダーが考えられるが,それらが一致するような性質を相転移性質と呼ぶことにする.相転移性質が起こるためのオブザーバブル直径を用いた必要十分条件を得た.これを用いて射影空間,スティーフェル多様体,SO(n), SU(n), Sp(n)の次元にパラメトライズされた列が相転移性質をもつことを証明した.さらに,先に述べた極限公式を応用して,相転移性質の必要十分条件をピラミッドにまで一般化した.これら一連の結果(小澤と共同)はMath. Z.に掲載が決定した. 与えられた一様に離散的な測度距離空間に対して,そのn階の積空間を考え,それにl_p積(1≦p≦∞)の距離と積測度を導入した測度距離空間を考えると,nにパラメトライズされた測度距離空間の列が得られる.Gromovはこのような測度距離空間のオブザーバブル直径を上から評価したが,その証明は概略しか述べられていない.これについて完全な証明を完成させ,さらにオブザーバブル直径の下からの評価も得た.これにより,この測度距離空間の列は相転移性質をもつことが得られた.この結果(小澤と共同)はManuscripta Math.に掲載が決定した. さらに別の研究として閉曲面の等径定数の評価を与えた.これはGeom. Dedicataから出版された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年度に計画していた相転移性質の研究は計画したことより多くの成果を得た.特に相転移性質のオブザーバブル直径による必要十分条件のピラミッド列への一般化の部分,一様に離散的な積空間が相転移性質をもつことの研究は当初の計画にない成果である.ここに,ピラミッドとは測度距離空間全体の空間の自然なコンパクト化の元のことである.ピラミッドへの一般化はオブザーバブル直径とセパレーション距離についての極限公式を証明することで得られた. 一方で臨界極限を決定する研究は,当初の見込みより かなり難しい問題であることが判明した.特に離散的な空間の積については,ハミングキューブですらアプローチの糸口が見つかっていない.ここに,ハミングキューブとは,n個の0と1の列からなる空間であり,離散空間としては最も単純な空間である. 当初の計画には入っていない研究として,閉曲面の等径定数の評価を得た.従来得られていたCalabi-Caoによる最良の評価より少しよい評価を得た.この研究において,閉曲面の新しい不変量を発見した.これは曲率がk以上の閉曲面がどのぐらい定曲率kに近いかを測る量である.
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの達成度」で説明したように,臨界極限を決定することは難しい問題である.しかし,スティーフェル多様体に限ったときは,ランダムベクトルのアイディアを用いてアプローチが可能であろうとの見込みを得た.行列の極分解や特異値分解などの道具を用いた証明を考案中である(首都大の高津氏と共同).見込みでは,スティーフェル多様体V(n,k)について,kもnに応じて増えるが,そのオーダーがnに比べて小さいときの臨界極限が無限次元ガウス空間であることが予想される. 上記の研究方法はkが大きいときは適用できない.k=nのときはV(n,k) = SO(n)(特殊直交群)となるが,これの臨界スケールオーダーはnのルートである.一方で,SO(n)はn次元から1次元の単位球面の積と類似の構造(実際には,直積ではなくファイブレーションの繰り返しの構造)をもっている.この球面の積空間はオブザーバブル距離についてコーシー列であることが分かっているので,極限空間は無限積と考えられる.特に臨界スケールオーダーは定数である.つまり,SO(n)と球面の積空間は類似の空間であるにも関わらず異なる臨界スケールオーダーをもち,非常に不可思議だが,今後の課題としてこの謎を解明したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
残高は誤差の範囲である.
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次年度使用額の使用計画 |
研究者の招聘,研究会への出張,物品の購入などを計画している.
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