研究課題/領域番号 |
26400062
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
正宗 淳 北海道大学, 理学研究院, 教授 (50706538)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | リュービル性 / トーション関数 / エバンス・ポテンシャル / 本質的自己共役性 / 2パラメーターブラウン運動 |
研究実績の概要 |
(1)本研究の主目的の一つは,多様体のある点からスタートしたブラウン運動が無限遠に到達する時間の期待値(torsion function)と多様体の無限遠における幾何学と解析の関係を明らかにすることである(Alexander Grigoryanと村田實との共同研究)。一方,L1リュービル性はその意味が不明であった。この研究ではこの問題を追及し,torsion function による,正の値を持つ調和函数のL1リュービル性の特徴づけ,エバンス・ポテンシャルによる正と負の値を持つ調和函数のL1リュービル性の特徴づけを行なった。 (2)本研究ではL2リュービル性の物理的意味を追及した。 上述した研究によりL1リュービル性がブラウン運動の無限遠における振る舞いと密接に関係していることが分かったが,本研究では,L2リュービル性はラプラシアンの本質的自己共役性,すなわち,量子力学の概念と密接に関係することが明らかになった(Radek Wojciechowskiとの共同研究)。従来のS.T-Yauなどによる研究から,完備多様体はL2リュービル性を満足してラプラシアンは本質的自己共役性であることも知られていたが,本研究ではそれらの間の直接的な関係を明らかにした。 (3)本研究の目的は,ラプラシアンの本質的自己共役性の確率論的特徴付けである(Micheal Hinzとの共同研究)。ユークリッド空間から閉部分集合を取り除いた空間で定義されたラプラシアンが本質的自己共役であることと,その集合を2パラメータ・ブラウン運動がヒットすることが同値であることを示した。これは,よく知られている事実,(本質的自己共役性より弱い)マルコフ拡張の一意性とその集合をブラウン運動がヒットすることが同値であることの一般化だと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は本研究課題の主目的は,マルコフ過程の長時間挙動における問題の解決にある。とりわけ重要な問題である,無限遠到達平均時間関数の収束・発散が,L1リュービル性と密接に関係することが明らかにされたため,概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
上述した研究のそれぞれの今後の推進方策を述べる。 (1)エバンス・ポテンシャルとグリーン函数の関係を調べる。また,エバンス・ポテンシャルとラプラシアンが離散スペクトルを持つことの関係を調べる。 (2)より精密な,局所L2リュービル性と本質的自己共役性の関係を調べる。 (3)2パラメータ・ブラウン運動以外の確率過程による特徴付けを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年11月にチュニジア・チュニスでの当該研究課題に関わる国際研究集会に参加する予定であったが,テロによる社会情勢を考慮して外務省職員と相談をした結果参加を見送った。平成29年2月及び3月に東北大学で開催予定の当該研究課題に関わる国際研究集会に外国人研究者を数名招聘したが,2名が参加を見送った。さらに,ドイツ・イエナ大学での退化した拡散過程の保存則の研究が多忙だったため,当該研究課題を遂行する時間が十分にとれなかったが,この研究が課題遂行をするうえで極めて重要なものとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年にラプラシアンと拡散過程を主題とした国際研究集会を計画しており,研究者との交流において当該研究をさらに発展,完遂させる。
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