二千年内外の歴史を有するという複比のまたの姿ともとらえられるべきシュワルツ微分,パラケーラー構造,測地カレントが誕生したのは,それぞれ18世紀後半,20世紀中盤,同後半である.複比,およびそれに後続するこれら諸概念の数々の目覚ましい応用を通じて,それらの有用性が高く評価されている.それらも複比に秘められた力と解釈されるべきものであろう.これらの発見が複比の長大な歴史と比して近年になされたことを考えれば,複比に対するわれわれの現時点での理解は不完全で,その真価は未だ秘されたままであると考えるのは自然であろう.本研究課題は,これら諸概念のさらなる応用,およびそれらの亜種・新種の発見を目指すものであった. 複比の末っ子とでもいうべきパラケーラー構造に関しては,その応用が,ルジャンドル結び目,および双曲空間の超曲面に応用を持つことが研究当初から期待されていた.より具体的に言えば,ルジャンドル結び目に特化したエネルギーの新たな定義,および双曲空間の超曲面に対する新たなガウス写像の定義が与えられることを予想している.これらに関しては,わたしが指導にあたる大学院生たちの助けを借り,研究は進行している.論文等のかたちで研究成果を発表するには現時点では時期尚早ではあるが,前者に関しては今年度中に,また後者に関しても来年度中に成果を発表できるのではないかと期待している.一方,群作用の剛性問題に対する応用に関しては,研究は停滞したままであった.科学研究費からの資金援助は終わったが,研究自体は続行するつもりである.
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