研究課題/領域番号 |
26400080
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
川村 一宏 筑波大学, 数理物質系, 教授 (40204771)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 線形作用素 / カオス / 荷重合成作用素 |
研究実績の概要 |
本年度は局所コンパクト距離空間の位相同型写像が導く荷重合成作用素のカオス性について考察した。初めに実数上の平行移動が導く荷重合成作用素が位相推移的であるための必要十分条件を荷重の積分に関する条件によって与えた。この結果を拡張して任意の次元のユークリッド空間上の平行移動が導く荷重合成作用素がカオス的であるための必要十分条件を得た。その結果平行移動が定めるユークリッド空間上のフローが導く荷重合成作用素のカオス性が同じの条件で特徴づけられることが明らかとなった。これらの結果の証明は、フローおよび作用素族の離散化を考察し、荷重シフト作用素についての既知の結果を用いて行われる。離散化の手続きによって、作用素半群の解析的理論に依存した従来の手法を回避することができ、したがってここで得られた結果は微分構造を持たない空間上の荷重合成作用素に対しても適用できる。これらの結果について現在論文を準備中である。 次にコンパクト空間上の複素数値関数空間上の等長変換について研究した。このような変換でゼロベクトルを保つものは常に実線形であり、荷重合成作用素とその複素共役によって定義される例がよく知られている。そのような形で表されない作用素が存在することは知られていたが、具体的な例はただ一つしか知られていなかった。連携研究者三浦毅氏との共同研究によって、荷重合成作用素及びその複素共役としては表されない作用素(ここでは非標準的作用素と呼ぶ)を構成する系統的な方法を与えた。また非標準的な等長作用素を許容するような空間のトポロジーには厳しい制限が課されることを示し、その応用として8の字空間上の等距離等長作用素は常に標準的であることを示した。これは三浦氏によって提示された予想に対する解答を与えている。論文は現在準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
全ての結果が年度の後半に得られたため、現在論文を準備中である。できるだけ早く論文を完成させることが必要である。また現在までに考察した関数空間はLp空間およびsupノルムを持つ、主に連続関数からなるものである。無限次元線形作用素のカオス性は複素解析学に起源をもつ関数空間においても考察されていることを考慮に入れれば、正則関数あるいは調和関数およびその距離の幾何学的類似のなす関数空間についても考察を進める必要がある。この方向の研究は現在の所あまり進展を見ていない。またカオス性を持つ線形作用素の一般論、特にカオス的作用素のスペクトルのもつ性質についての考察も不十分である。これらが当初の計画に比べてやや遅れていると考える理由である。
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今後の研究の推進方策 |
考察する関数空間のクラスをさらに広げて考えることにより、当初目標としていた正則関数・調和関数とその距離の幾何学的類似のなす関数空間上の作用素について、そのカオス性(Devaneyのカオス・Li-Yorkeのカオス・Frequent chaosなど)および関連する性質を考察する。また線形作用素、特に過重合成作用素、のスペクトルとそのカオス性についての関係を考察する。離散スペクトルについてはよく研究されているが作用素の連続スペクトルがカオス性にどのような影響を及ぼすのか、についてはほとんど知られていない。まずはスペクトルが明示的に記述できる過重合成作用素のカオス性を考察することで手がかりをつかむ。さらに力学系の不変量、特に位相エントロピー・平均次元などを空間のコンパクト性を仮定せずに再定義し、カオス的無限次元線形作用素の考察に応用する。 等長作用素の反復合成を考えることによって、関数空間上の単位球および単位球面上の力学系を考えることができる。更に双対空間上に導かれる随伴作用素の力学系を昨年度得られた等長変換の表示を用いて研究する。昨年度の研究により双対空間に弱*-位相を入れた空間を考えることで、元の空間との関係がよりはっきり理解できることがわかった。そこで等長変換が導く同相写像を、弱*-位相を持つ双対空間およびその単位球面上の力学系として研究する。 今年度は力学系理論に関わりを持つ研究者との研究交流をさらに進めることを目指し、研究集会を開催する予定である。毎年3月に開催している研究会に加えて、8月には一般位相幾何学の国際研究集会を予定しており、海外からの研究者を招聘する予定である。また国内外の研究集会やセミナーに出席し研究発表・研究交流を行ったり、書籍および専門誌による情報収集を行うことは勿論である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年3月初めに研究集会を開催し、そこに出席予定の研究者の旅費・謝金として支出することを予定していたが、当該研究者が出席できなかったために当初予定していた額が次年度使用額として発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
2015年度は次年度使用額を当該年度使用分と合わせて、研究集会出席および開催に関わる旅費・謝金、また物品費、特にパソコンの購入・力学系関係書籍・電子ジャーナル購入費などに充てる予定である。
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