リーマン面の等角同値類全体の作る「モジュライ空間」の構造の研究で進展があった。とくに、「モジュライ空間」の自然なコンパクト化である「ドリーニュ・マンフォードコンパクト化」(DMコンパクト化)のオービフォールド構造について詳しく研究し、成果を得た。DMコンパクト化のオービフォールド構造に関しては、2014年にJ.D.G.誌上に掲載されたハッバード・コッホの結果が重要である.彼らは安定曲線の近傍のモジュライ空間の複素構造を研究したが、その結果はいわば「局所的」であり、大域的なオービフォールドアトラスの構造を与えるものではなかった。本研究の実施期間中にDMコンパクト化に備わった自然なオービフォルド・アトラスの構成に成功した。そのアトラスは、リーマン面上の単純閉曲線を「頂点」とする有限次元の「カーブ複体」の単体を「インデックス」にするオービフォールド・チャートからなっている。このアトラスはDMコンパクト化のオービフォールド・アトラスとして極めて自然なものであり、射影空間のなかの自然なアフィン空間によるアトラスの構造に対応するものである。とくに各チャート上にはそのチャートのインデックスであるカーブ複体の単体に対応する安定曲線とその変形からなるリーマン面の退化族が並んでいる。これをつなぎ合わせて、DMコンパクト上の「普遍退化族」が構成される。 この成果から得られた結果として、カーブ複体の最大次元単体によりインデックス付けられたオービフォールド・チャートに、高次元ユークリッド空間の「結晶群」が付随することの発見である。この意味については、将来の研究に待ちたい。 以上の結果は論文「The Deligne-Mumford Compactification and Crystallographic Groups」として完成しているが、残念なことにレフェリーの途中であり、まだ出版に至っていない。
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