研究課題/領域番号 |
26400099
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
茂手木 公彦 日本大学, 文理学部, 教授 (40219978)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Dehn手術 / Seifert空間 / L-空間 / L-空間結び目 / 結び目種数 / twisting / seiferter |
研究実績の概要 |
L-空間は最も単純なHeegaard Floerホモロジーをもつ有理ホモロジー3球面として定義され、Heegaard Floerホモロジーの視点からレンズ空間を一般化したものになっている。特に、L-空間を生み出すDehn手術(L-空間手術)を許容する結び目はL-空間結び目と呼ばれ活発な研究がなされている。本研究ではBaker氏と共同で、Knot Heegaard Floerホモロジーが同型となるL-空間結び目は高々有限個しか存在しない、というHedden-Watson予想に取り組んだ。この予想はL-空間結び目の特殊性により、結び目種数が同じであるL-空間結び目は高々有限個である、という予想と同値である。結び目種数が1の場合はGhigginiにより肯定的に解かれているが、結び目種数が2以上の場合には未解決である。そこで、L-空間結び目のツイスト族に焦点を絞り、Hedden-Watson予想についてBaker氏と共に考察を進めた。昨年度の研究でL-空間結び目のツイスト族の豊富な例が得られていたので、それらの例を参考に、どのような方向にねじることによってL-空間結び目のツイスト族が得られるかを詳細に検証し、ねじりを加える自明結び目と元の結び目の絡み数に着目して研究を進めた。その結果、絡み数が0のツイスト族には高々3個のL-空間結び目しか存在しないことが証明された。さらに、絡み数が2以上のツイスト族には同じ種数をもつ結び目は有限個であることを示し、絡み数が1の場合を除きL-空間結び目のツイスト族に対してはHedden-Watson予想が成立することを証明した。また、正(負)ブレイドの閉包で得られるL-空間結び目の族に対するHedden-Watson予想を証明し、応用としてトーラス結び目を含むL-空間結び目の大きなクラスに対してHedden-Watson予想が成り立つことも示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
L-空間結び目に関するHedden-Watson予想ーKnot Heegaard Floerホモロジーが同型となるL-空間結び目は高々有限個ーは、Knot Heegaard Floerホモロジーが粗い意味でL-空間結び目を決定するということを予想するものであり、その解決は様々な応用をもたらすことが期待される。この予想を考える上で無限個のL-空間結び目を系統的に構成すること自体容易ではない。そこで、昨年度の研究で得られていたL-空間結び目のツイスト族に対して予想を検証した。絡み数が0のツイスト族内の結び目の種数は上からある定数で抑えられるので、無限個のL-空間結び目を含む絡み数0のツイスト族が得られれば、Hedden-Watson予想は否定されることになる。その意味で絡み数が0のツイスト族はHedden-Watson予想を考える上で重要な対象である。Baker氏との共同研究で絡み数が0のツイスト族には高々3個のL-空間結び目しか存在しないことが明らかになり、Hedden-Watson予想を支持する結果が得られた。証明では接触幾何を応用し、上記のようなツイスト族にはタイトな接触構造をサポートするファイバー結び目が高々3個しか存在しないという、より一般的な結果が示されている。本研究を通して接触構造や多変数アレクサンダー多項式などに関する多くの知識や知見を得ることができ、バンド和、およびその一般化で得られる結び目がタイト接触構造をサポートするファイバー結び目になるかというBaker氏との共同研究に進展中である。一方、絡み数が1のツイスト族に関しては部分的な結果はいくつか得られているものの、完全な解決には至っておらず今後の課題である。また、昨年度と同様にL-空間手術、L-空間結び目の研究を中心に進めたため、3次元多様体の基本群の不変順序に関する研究を進められなかった。
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今後の研究の推進方策 |
絡み数が1である自明結び目に沿って得られる結び目のツイスト族に対するHedden-Watson予想が依然未解決なので、その解決を目指したい。これまでの研究から、絡み数が1である自明結び目に沿って得られるツイスト族も高々有限個のL-空間結び目しか含まないことが期待されるので、その証明に向けて研究を進める。L-空間結び目のツイスト族とL-空間手術のツイスト族に本質的な差があるのかどうか、それらの間の関係も明らかにしたい。さらに、ねじってL-空間結び目を構成する際、無限個のL-空間結び目を得るためには、ねじる方向を決める円板と元の結び目は常に同じ方向で交わることが予想される。これまでに知られている例ではこの予想が成り立っていることが確認されている。この予想が証明されれば、L-空間結び目のツイスト族に幾何学的な強い制限が与えられ、L-空間結び目とブレイドや接触構造との関連性についての研究の新たな道が開かれることも期待される。Dehn手術のツイスト族を考える上で、ツイスト数を無限にした時の極限として現れる3次元多様体とその中のsurgery dualは多くの情報を含む重要な対象である。今後、これらについても詳しく調べていきたい。また、ツイスト族以外のL-空間結び目を無限個含む族を構成し、この族に対してHedden-Watson予想を検証していきたい。特に、結び目を構成する上で自然な操作である結び目のバンド和やその一般化で得られる結び目がL-空間結び目になる条件に関する進行中の研究をより発展させ完成させたい。L-空間と関連の深い、3次元多様体の基本群の左不変順序やそれを強めた両不変順序の研究が滞っているので、その研究も進展させたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年11月から12月の間に1週間ほどフランスに出張を予定していたが、国際情勢が悪化したため出張を見合わせ、その後改めて出張を調整することが難しかったため残ってしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の出張旅費予算に残額分をプラスして、有効に使用する。
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