研究課題/領域番号 |
26400102
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
岸本 晶孝 北海道大学, -, 名誉教授 (00128597)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Cスター環 / 流れ / 非有界微分 / 流れの内部近似性 / 流れの準対角性 |
研究実績の概要 |
Cスター環上の流れについての二つの概念、AI(内部近似可能性)とQD(準対角性)について調べた。残念ながらいまだ関係は詳らかでない。AI流れ:これを特徴づける有効な条件はいまだ明らかでない。(AFCスター環の特徴づけが最近やっと、「分類可能Cスター環」であることとK理論の決定からある程度成功しそうであることを思うと、「分類可能流れ」というような広い(しかし任意ではない流れの)範囲のなかで捉えるという視点が必要とされるのかもしれない。それはおそらく接合積の分類可能性と関係するかと思われるが、期待される接合積としてのCスター環は、単純性から一番ほど遠く現在「分類可能」でない。)AIでない流れ:これに対する十分条件はいまだ自明なものしか存在しない。(KMS状態の不存在、可換Cスター環上で非自明など。)あらたに構築したAIでない例は、この「自明なもの」に帰着される。AI流れの拡張(AI流れと可換な作用との接合積上への)のなかでAIでないものがあるものがあるということを期待して証明しようとしたが、証明できたものはすべてAIになってしまった。QD流れ:考えている範囲内で、この条件はAIより弱く、一般にAIより確かめるのが容易である。しかし今のところ、単純性を仮定すると、AIでないQD流れの存在を示せていない。AIと類似の性質としてCAI(連続的AI)があるが、CAIが本当にAIより強い性質かどうかはどんな状況のもとでも不明である。以上、AI、QD、CAIの新たな例を構築する以外の結果は得られなかった。 流れの生成作用素は微分であるが、QD流れの前段階として、QD微分を定義した。QD微分は生成作用素であれば、もちろんQD流れを生成する。そうでない場合でも、QD流れを生成するような微分に拡張できる。現在方針を変えて、微分に今までの知見を応用すればQD微分について何が言えるか調べている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
流れのAI性についての研究は1970年代から行われているが、1980年ごろに出版されたBratteliとRobinsonの本に記されていること以外目立った研究、成果はなく、今や忘れられた分野といえるかもしれない。その間にCスター環の分類理論は大きく進展したので、そこで得られた知識・技術を応用することにより、物理学の見地からは重要とされている時間発展をあらわす「流れ」に関しても何らかの結果が得られるかと期待したが、Cスター環で用いられる代数的議論(連続的変化を除いて得られる離散的対象)は有効でなく、見通しが甘かったといわざるをえない。ある範囲の流れすべてに適用さっるような包括的議論の構築は出来ないとしても、個々の例を通じて何らかの見通しが得られるかとも考えたが、これも上手く行っていない。それで現在は、(非有界)微分に、流れで得られた知見を適用することを考えるという風に、すこし方針の変更を試みている。
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今後の研究の推進方策 |
非有界微分の理論は、現在でもBratteliとRobinsonの本とSakaiの本で尽くされているが、この理論は主に何らかの意味で内部近似可能な微分に対してそれが流れを生成するための条件に対する考察で占められている(Sakaiの本は1990年ごろのものだが、両者とも1970年代の結果をまとめたものといえる)。時間発展の定義とその性質に重きをおくという従来の観点からこれは当然のことだが、実は、その逆の例、それが流れを生成しない例も具体的には作られていない。(ただし物理学的な定性的考察からは、大部分の微分が流れを生成しないと思われているようである。でも数学的証明はない。)この分野への寄与ができるかを考えたい。量子力学では時間発展は可逆であることが当然のごとく主張されるが、Cスター環上の「量子力学」ではこのことは明らかではない(ヒルベルト空間上の全有界作用素を対象とする場合とそのCスター部分環を対象とする場合との違い)。内部近似可能な微分も、(非可逆な)半流れを生成しうる。これは従来の理論の中で全く看過されているところで、こういう可能性を含めて考察することは、観測の問題の観点からも、重要でないかと思われる。(ただし又しても、正準非交換関係から構成される場合を除いて、連続パラメータの半流れを構成すること、つまり非自明な半流れを構成することは出来ていない。)今までなんらの結果が得られていないのは人がその重要性に気付かなかったからで、今後の発展が期待されるものと信じて、従前の課題とともに、この方面も研究するつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
ソウルICM出席者から何人か札幌に招待するつもりが、期待したひとが来ず1名しかよべなかった。また私が韓国のICM衛星会議に出席する費用も会議場でのホテル代がかからなかったことで、当初の予定より使用額が減ってしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
現在旧知のアメリカ人をひとり招待するべく交渉している。もし来れないと決まった場合は(結局暇なのは私の方なので)秋にこちらから出かけることを考えている。そのときには前から何度か訪れているカナダにもよる予定。6月末ごろに中国の作用素環会議に出席する予定。あと国内旅行を京都大学数理解析研究所に2度、高知大学などに2度ほど行く予定。研究費の大部分を旅費として使用する。
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