研究実績の概要 |
本年度の研究では, アフィンヘッケ代数の変形を用いて, 可積分な確率過程を構成することに成功した. 以前の研究で, デルタ関数型の斥力相互作用をもつ 1次元ボゾン粒子系のハミルトニアンに対し, その離散化をアフィンヘッケ代数の表現論を用いて構成した. ハミルトニアンの離散化として得られる差分作用素は 2つのパラメータを含むが, これらを特殊化すると, 連続時間のマルコフ連鎖を定める生成作用素となる. これが定める確率過程は, 笹本-和達によって定義された q-Boson 系にほかならない. 以上の観察を踏まえて, さらに多くのパラメータを含む離散的なハミルトニアンを導入する. このようなハミルトニアンは, アフィンヘッケ代数に新たなパラメータを導入して変形した代数を考え, その表現論を用いることにより構成できる. 結果として得られるハミルトニアンは 4つのパラメータを含む. これらを適当に特殊化すると, マルコフ連鎖の生成作用素となる. その結果として得られる確率過程は, Povolotsky によって定義された q-Hahn 系の連続時間極限となっている. q-Hahn 系の生成作用素の固有関数はベーテ仮設法によって既に構成されているが, 上述の代数的構成の枠組みのなかでは自然に得ることができ, その表現論的な意味も分かる. q-ボゾン系および q-Hahn 系は, いずれも可積分な確率過程として知られているが, その代数的な構造について得られた結果としては, 本年度の研究成果が初めてのものだと思われる.
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今後の研究の推進方策 |
本年度に得られた結果を踏まえて, 可積分な確率過程の代数的構造に関する研究を進める. 特に, 1次元の量子系の離散化として捉えることにより, 生成作用素にあたるものを構成し, その意味を明らかにしたい. 時間があれば, もうひとつの研究対象である多重ゼータ値の q 類似についても考察を始めたい.
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