研究実績の概要 |
昨年度の研究で, q-ボゾンゼロレンジ過程と呼ばれる可積分確率過程の拡張を構成した. 今年度は, この確率過程の生成作用素に対する固有関数を, q-ボゾン代数を使って定義される作用素の行列要素で表す公式を導出することに成功した. q-ボゾンゼロレンジ過程は, 一次元離散空間上を粒子が動く連続時間マルコフ過程である. 以前の研究で, この確率過程の生成作用素が, アフィンヘッケ代数(の変形)と呼ばれる非可換代数の表現論を用いて構成できることを発見した. 昨年度は, この手法を表現論的に拡張することにより, q-ボゾンゼロレンジ過程の多種粒子版と見なされる確率過程を構成した. この構成の利点は, 生成作用素に対する固有関数が, 表現論的な道具を使って容易に作られることにある. しかし, 物理学的に興味のある量を計算するには, さらに明示的な公式が必要であった. 今年度は, この固有関数をq-ボゾン代数と呼ばれる別の非可換代数を使って表す明示的な公式を得た. この公式は, 量子逆散乱法と呼ばれる解析手法で用いられる基本的な作用素の行列要素として固有関数を表すものである. この作用素は量子アフィン代数の表現論と深い関係があることが知られている. 今年度の研究で得られた公式は, 量子アフィン代数と我々のアフィンヘッケ代数(の変形)の表現論を, 固有関数のレベルで関係づけるものと見なされる. この結果は, 表現論的な観点からは量子群とヘッケ代数の表現論の双対性の一端と捉えられるだろう.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的のひとつは, 可積分確率過程の表現論的構造を明らかにすることである. 昨年度の研究では, q-ボゾンゼロレンジ過程と呼ばれる可積分確率過程の拡張を, 非可換代数の表現論を使って構成した. しかし, その生成作用素の固有関数の明示的な公式を得ることはできなかった. この問題を今年度の研究では解決することができた. これは本研究の目的に沿った結果である.
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの研究では q-ボゾンゼロレンジ過程およびその拡張について考察した. 来年度は, ほかの可積分確率過程についても同様に表現論的な観点から研究する. さらに, 本研究のもうひとつの研究対象である多重ゼータ値についても考察する. 特に, 最近, 研究が進んでいる有限多重ゼータ値に対して, そのq類似を構成し, 特殊値の計算や整数論的な性質の解析などを行う.
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