研究課題/領域番号 |
26400107
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
野邊 厚 千葉大学, 教育学部, 准教授 (80397728)
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研究分担者 |
間田 潤 日本大学, 生産工学部, 准教授 (80396853)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | クラスター代数 / 離散戸田格子 / QRT系 / 楕円曲線 |
研究実績の概要 |
トロピカル代数曲線をスペクトル曲線にもつ離散力学系である超離散一般化戸田格子は,アフィンLie代数を用いて構成された離散一般化戸田格子に超離散化とよばれる極限操作を適用して構成される.一方,有理函数体の生成元(クラスター変数)に変異とよばれる操作を繰り返し適用して生成されるクラスター代数は,変異を定める反対称化可能行列(交換行列)とCartan行列との対応関係を通してLie代数と結びつき,クラスター変数の有限性とLie代数の有限次元性が等価であることが知られている.クラスター変数の変異を離散力学系の時間発展と見なすと,そのような離散力学系はクラスター代数に付随するLie代数と関係づけられる.これらの事実を踏まえると,Lie代数を媒とした,離散一般化戸田格子とクラスター代数との対応関係が強く示唆される.本研究においては,離散一般化戸田格子の時間発展とクラスター代数の変異との関係について考察し,とくにA(1)1型Lie代数に対応するものに対して,その直接的対応関係を明らかにした.A(1)1型離散戸田格子はその時間発展をスペクトル曲線(楕円曲線)上の加法として実現できるため,楕円曲線の加法の定める力学系の一般的形式であるQRT系として表すことができる.同様に,A(1)1型クラスター代数の変異もQRT系として実現できることを示し,それらのQRT系をパラメータの極限操作を通して結びつけ,A(1)1型離散戸田格子とA(1)1型クラスター代数との対応関係を示した.この対応関係を用いると,クラスター変数を離散戸田格子の特解を用いて表現することができる.また,離散戸田格子を通して,A(1)1型クラスター代数の変異を楕円曲線の加法を用いて実現することができる.すなわち,クラスター代数の幾何学的特徴付けのひとつを与えることができた.このような幾何学的特徴付けを他のLie代数に対応するクラスター代数に対しても拡張すべく研究を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画においては,C(1)N型Lie代数に対応する離散一般化戸田格子の超離散化を行い,そのスペクトル曲線のトロピカルJacobi多様体上で時間発展を線形化し,超離散一般化戸田格子の性質を調べる予定であった.このようにアフィンLie代数に対応する離散一般化戸田格子の時間発展およびその超離散化について研究を進めていく過程において,これらの離散力学系とクラスター代数の変異との接点が次第に明らかになってきた.すなわち,クラスター代数の変異は離散一般化戸田格子を含むより広いクラスの離散力学系と関係する可能性が考えられるようになってきた.そのため,当初の研究計画を修正し,平成27年度は離散一般化戸田格子の時間発展とクラスター代数の変異との対応関係について研究した.また,このような対応関係を通して,クラスター代数の変異の幾何学的特徴付けについても考察した.とくにA(1)1型クラスター代数については,楕円曲線の加法構造を用いてA(1)1型離散戸田格子との直接的対応関係を導出し,その変異の幾何学的性質を明らかにした.研究の方向性としては多少異なるが,研究の視点を変更したものであり,現在までの研究計画の達成度に関してはおおむね順調であると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に得られた研究成果をさらに発展させるため,今後はクラスター代数の変異と離散可積分系との関係について詳しく調べる予定である.クラスター代数の変異を射影空間上の離散力学系と見なすと,クラスター代数の特徴であるLaurent性と正値性から,そのような離散力学系もLaurent性と正値性をもつことが従う.Laurent性とは,従属変数を初期変数のLaurent多項式として表すことが可能であるという性質であり,正値性とはそのLaurent多項式が減算を含まないことを意味する.さらに,これらの性質は超離散化の十分条件であるため,対応する超離散力学系を構成することが可能である.すなわち,クラスター代数の変異から得られる離散力学系を考えることは,離散一般化戸田格子を含むより広いクラスの力学系の超離散化について考察することに繋がる.このようにより広い視野をもって離散一般化戸田格子の時間発展のトロピカルJacobi多様体上での線形化について考察することで,当初の研究計画を遂行したい.平成27年度までの研究成果を発展させるため,A(1)N型もしくはAN型クラスター代数の変異をQRT系を用いて記述し,その幾何学的特徴付けについて考察する.さらに,超離散化の手法を用いて,これらのクラスター代数に対応する超離散力学系を導出し,それらのトロピカル幾何学的特徴付けについても考察する.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画の修正等もあり,研究計画遂行のための情報収集や予備的考察に時間を使った.そのため,計算機,書籍等の購入により,物品費に関してはほぼ予定通りの使用額であったが,研究成果発表等が当初計画を下回ったため,旅費の使用が滞った.このような理由により,当初の研究計画に比べて旅費の使用額が少なく,次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
修正した研究計画に従って研究を遂行し,得られた研究成果を査読付き論文誌や国際研究集会等において積極的に発表する.これらの研究集会に参加することで旅費を使用する.また,共同研究のためにセミナー等を行い,旅費を使用する.投稿論文のオープンアクセスのための費用としての使用も考慮している.
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