最終年度は階数2のクラスター代数の変異から導かれる離散可積分系の幾何学的研究を行った。 階数2のクラスター代数は、交換行列と対応する一般化Cartan行列(もしくはDynkin図)を用いて、有限型、アフィン型および不定型に分類される。有限型は有限周期をもつため、対応するLaurent多項式環の構造から容易に保存量を構成することができる。$A_1\times A_1$、$A_2$、$B_2$型の場合、この保存量から構成される不変曲線は楕円曲線となり、対応する離散可積分系はQRT系であることが分かる。一方、$G_2$型の場合、得られる不変曲線は特異4次曲線であるため、直接QRT系と関係づけられるわけではない。本研究においては、射影平面のブローアップを用いてこの特異曲線の特異点解消を行い、楕円曲線を構成した。さらに、クラスター代数の変異と共役なこの楕円曲線上の離散可積分系を導出し、その幾何学的意味づけを行った。すなわち、このような離散可積分系は、楕円曲線上のMordell-Weil群の捩れ部分群の生成元によって与えられることを示した。この捩れ部分群は位数4の群であり、$G_2$型クラスター代数が周期8をもつことと対応する。 また、アフィン型($A^{(1)}_1$、$A^{(2)}_2$)についても同様の考察を行い、特異4次曲線で与えられる不変曲線の特異点解消を通して、それぞれの型に対応する円錐曲線上の離散可積分系を構成した。これらの離散可積分系はそれぞれ$A^{(1)}_1$型離散戸田格子の時間発展およびBacklund変換の特異極限であることを示した。アフィン型の場合、無限周期をもつため、有限型と同様の代数学的手法では不変曲線を構成できないが、本研究ではトロピカル代数曲線上の区分線形写像力学系を経由することでその困難を解決した。
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