研究課題/領域番号 |
26400109
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
時弘 哲治 東京大学, 大学院数理科学研究科, 教授 (10163966)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 準可積分系 / Laurent性 / co-primeness / 戸田格子方程式 / LP代数 / 特異値閉じ込め / 離散KdV方程式 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き,可積分力学系とカオス力学系の双方の性質を兼ね備えた系(準可積分系)の代数的エントロピーやco-primenessについて研究した.可積分系である2次元戸田格子方程式は,従属変数の間の関係が双線形形式と呼ばれる3項からなる2次式で与えられるが,そのうちの2つの項の次数を一般化した系を考察した.その結果,時間発展した各項が初期値のLaurent多項式になること(Lauirent性),および,整数係数の初期データのLaurent多項式環においてすべての項の既約性がなりたつことを示した.また,この多項式形式に対応する非線形形式の拡張された2次元戸田格子方程式では,各初期データの有理式としてみたとき,一般化されたLaurent多項式環においてco-primeness性が成立することを示した.ここで,一般化されたLaurent多項式環とは,2点以上の点のLaurent多項式の和となる環である.さらに,上記のLaurent性,既約性およびco-primeness を保存する戸田格子方程式の一般化は任意のn+m次元系に拡張できることを証明し,これらの系がLP代数(Laurent Phenomenon algebra)の構造を持つことを示した.さらに,同様の co-primeness を保存する一般化は離散KdV方程式に対しても可能であることを示し,その簡約によって,Laurent性を持つ低次元の離散力学系がシステマティックに構成できることを示した.これらは,cluster代数やLP代数の構造は持たず,新たなLaurent性を持つ系としてその数理構造の解明が急がれる.さらに,2次元の有理写像として代数的エントロピーは0であるにもかかわらず特異値閉じ込めの性質を持たない線形化可能系の高次元対応を発見した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2階の有理写像を特徴付ける指針として特異値閉じ込めと代数的エントロピーがあるが,これらの概念はそのままでは高次の離散方程式には適用できない.そのため,特異値閉じ込めの概念を高次元に適用できるよう co-primeness という概念を提唱し,これまで,実際にいわゆる可積分系がこの co-primeness を持つことを示してきた.そして,co-primeness を持つ格子方程式(拡張されたKdV方程式)を見出し,この方程式が,例外的な2階離散力学系であるHietarinta-Viallet方程式をその簡約に持つことを示した.これは当初予想していなかった結果である.さらに,この拡張されたKdV方程式は双線形形式ではLaurent性を持ち,また,cluster代数によっては(少なくとも単純な変形では)表現できないことを見出した.その後,このような系(準可積分系)は離散戸田格子方程式を一般化した系からも構成でき,さらに,可積分格子系は本質的に空間2次元(+時間1次元)系であるが,準可積分系では,空間次元を任意次元に拡張できることもわかった.さらに,やはり例外的な2階の非線形有理写像と考えられている線形化可能系も,自然な形で高次元化できることがわかってきた.すなわち,2次元の有理写像において例外的であった二つの系,特異値閉じ込め性を持つが代数的エントロピーは正であるもの,逆に特異値閉じ込め性を持たないが代数的エントロピーは0であるもの,に対してその高次元の対応物を構成し,それらが,Laurent性や新たに提唱した co-primeness の概念によって特徴付けられることを示した.これは,当初は予想していなかったたいへん興味深い成果であり,当初の計画以上に研究が進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
準可積分性についてより詳細な研究を行う.現在,離散KdV方程式の拡張と離散戸田方程式の拡張によって,一連の準可積分系を構成し,その簡約の持つ代数的エントロピーなどを求めたところである.今後は,(1) その他の準可積分系の発見,(2) 準可積分系の分類,(3) 準可積分系を特徴付ける代数的あるいは幾何学的数理構造の発見,(4) 準可積分系の特殊解の構成,(5) 準可積分性の連続極限,(6) 準可積分系の超離散化,(7) co-primeness 条件の改良,(8) 他の離散可積分性条件との比較,(8) 非自励系への拡張,など多くの課題を遂行しなければならない.当面の目標は,(1)Adler-Bobenko-Suris の分類した可積分格子すべてに関して準可積分系拡張を試み,(2) その分類を行う,ことである.その過程で,(3) についての知見が得られることも期待している.(5) については準備段階的な結果も得られているが,可積分系とは異なり解を構成するまでにはいたっていない.そこで (4) に関連して,パラメータ及び境界条件を選ぶことによって,何らかの特殊解(特殊函数解であることが望ましい)を求め,その連続極限を考えることによって連続極限の解を調べてみたい.また,特殊解を求めやすいものは,いわゆる線形化可能系であるので,その高次元拡張において特殊解のシステマティックな構成を行いたい.線形化可能系については,2階の有理写像においてもその定義に曖昧な部分があるため,co-primeness のように数学的に厳密な定式化を考える必要がある.本研究課題は今年度(平成29年度)で終了するが,これらの課題を成し遂げるにはまだ時間が必要であるので,何らかの形で継続させてゆくつもりである.
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次年度使用額が生じた理由 |
購入した物品の値段が予想よりも幾分少なかったため,約3700円の余剰が出,翌年度にまわすことにした.
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次年度使用額の使用計画 |
今年度の物品費にあわせて,PCの周辺機器(HDディスクなど)の購入に使用する.
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