研究課題/領域番号 |
26400109
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
時弘 哲治 東京大学, 大学院数理科学研究科, 教授 (10163966)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 準可積分系 / Laurent性 / coprimeness / LP代数 / 離散可積分系 / 離散戸田方程式 / 線形化可能系 |
研究実績の概要 |
(1) 線形化可能系の2次元への拡張を考察した.線形化可能系とは,1次元の非線形有理写像のうち,(一般にはより高階の)非自律線形離散方程式系に還元できるものである.非自律系の係数は,初期条件によって定まる.Dana-Scott 漸化式が有名である.Dana-Scott 漸化式の2次元化は,クラスター代数の観点から調べられている.本研究では,Somos 漸化式に類似の線形化可能系である Heideman-Hogan 漸化式から出発しその2次元拡張を導いた.この2次元系は各軸の2方向に線形化可能であり,その簡約によってHeideman-Hogan系を含む線形化可能系の属が得られる.これらの系が,Laurent性を満たすことも明らかにした.また,これまでに研究されてきたものを拠り一般に拡張した,Dana-Scott 漸化式に関連する高階の2次元線形化可能格子系の属も構成した.
(2) 一般の高次元格子上で定義される一連の離散力学系を導入した.これらは,離散戸田格子方程式の高次元変形であり,特異点閉じ込め条件の代数的再定式化であるcoprimeness条件を満たす.いわゆるτ関数を導入することによって,可積分系に特徴的である,双2次形式の一般化となる多項式形式が満たされ,この形式ではLaurent性,ならびに既約性が成り立つことを示した.これらの計は,初期値依存性が指数関数的であるにもかかわらず,coprimeness条件を満たすことから準可積分系と考えられる.さらに,この系がクラスター代数のある種の一般化となる Laurent Phenomenon 代数(LP代数)の構造を持つことも証明した.この構造を持つ理由は,LP代数を特徴付ける exchange polynomial が,考察した方程式に直接現れるためである.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
離散可積分系をその部分系として含む,離散準可積分系の概念を提案し,離散準可積分系に属する一連の新しい方程式系を構成できたのは,当初の計画に無い著しい成果であると考える.離散準可積分系とは,co-primeness条件を満たす離散系である.co-primeness条件は,2階非線形有理写像の一種の可積分性判定条件である singularity confinement を代数的に再定式化したものであり,数学的に厳密な定義である.これによって,離散KdV方程式や離散戸田方程式の準可積分系拡張が得られ,それらがLaurent性,一般化されたLaurent性を持つことを示すことができた.特に,一般化されたLaurent性をもつことや,これらの写像がクラスター代数の範疇に入らない(少なくとも直接の関係は無い)ことを示すことができたのは,大きな成果であると思う.ここで,一般化されたLaurent性とは,一点で局所化した環における多項式ではなく,2点以上(有限点)の局所化によって定められる環上の多項式で定義されるLaurent性である. さらに,これまでは,co-primeness条件は,多項式形式における既約性をもとに証明されてきたが,こうした既約性が成り立たない系においても,co-primeness条件を満たし,自然に準可積分系とみなせる系を構成することができた.これらの点から,co-primeness条件は,ひとつの有力な「可積分性(準可積分性)」条件であると考えられる. 以上の理由により当初の計画以上に進展していると考えている.
|
今後の研究の推進方策 |
今後は,準可積分系の分類に取り組みたい.co-primeness条件を満たす2階の有理写像をまずすべて求める.射影空間での一般化されたLaurent性に着目し,何点での局所化が必要であるかを調べることにより分類を行いたい.2階の有理写像に関しては,曲面の分類理論を用いた坂井秀隆の著しい結果があるが,ここでは代数的に分類を行うことを考える.そのため,singularity confinement を用いて得られている多くの系について,その自律化が,どのような局所化に対応するかをまず考察してゆく.その後,高階の系,さらには高次元の系の分類理論へと理論的な発展を行いたい. 同時に,離散準可積分系の意味のある連続極限についても考察したい.適当な連続極限では,自明な系や,もとの系の特徴を全く持たない系に移行するため,何らかのよい指針が必要である.そのため,特殊解を持つケースを考察し,その特殊解を保存する極限を考察するのがよいと考えている. また,準可積分系の非自律化についても考察が必要である.離散dKdV方程式に対応する非自律化は Grammaticos, Ramani, Willox らによって行われているが,さらに戸田格子方程式系列に関しても非自律化を考察したいと考えている. もうひとつは線形化可能系の高次元化についての研究の推進である.すでに Heideman-Hogan 系については高次元系を構成しているが,その代数的構造についてはよくわかっていない.Danna-Scott 系はクラスター代数からの考察がなされているが,Heideman-Hogan 系は少なくとも直接的にはクラスター代数では表現できない系である.LP代数との関連や高階化についての研究を進めたいと考えている.
|
次年度使用額が生じた理由 |
成果報告を予定していた研究集会「Integrable Systems and Applications」が,2018年7月に台湾で行われる12th AIMS Conference の1セッションとして開催されることになり,その渡航費用として,30万円程度を使用することとした.また,1昨年度の共同研究者であるルーマニアの Stefan Carstea 教授を招聘する予定であったが,昨年度中は教授のご家庭の事情により来日できなかった.代わりに今年度に招聘するための費用として約40万円を使用する.
|