研究課題/領域番号 |
26400112
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
吉田 裕亮 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (10220667)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 関数解析学 / 作用素環論 / 非可換確率論 / エントロピー / 量子変形 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、当初の研究実施計画通り自由独立性と通常の独立性の補間に関する調査を行った。通常の独立性から自由独立性に移行する重要なモデルとしてランダム行列があり、ランダム行列は、その行列サイズを増大させることにより漸近的に自由独立性に移行する。q-独立性も、通常の独立性と自由独立性の補間を与えるものとして考えられるためこの q-独立性との関連を視野に入れ、平成28年度は、このランダム行列の行列サイズを無限大にしたときのスペクトル極限分布の、特にその2次漸近挙動としての分布モーメントのゆらぎに関しての研究を中心に行った。 その結果、成分間にMAモデルで相関があるようなランダム行列は複合 Wishart 行列として与えられることを明らかにし、2次漸近挙動であるモーメントのゆらぎを厳密に求めることに成功し、結果を取り纏め学術論文に投稿を行った。また、対角成分の Gauss ランダム行列で摂動された Wigner 行列のゆらぎの厳密解は、この前年度に求めることに成功していた。これに関しては、平成28年度夏にポーランド科学カデミー主催で開催された国際シンポジウムで招待講演として成果を取り纏めて発表を行った。 なお平成28年度は、既に研究結果を取り纏めて学術雑誌に投稿していた相対エントロピーにおいて、参照 (reference) 測度と対象 (object) 測度の両方を一般のFokker-Planck 方程式により拡散過程で時間発展を行ったときに得られる拡張された de Brujin 関係式に基づくエントロピー消散定理に関する論文が学術論文に掲載され公表されたことも併せて実績として報告しておきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
古典系において、今まで deBruijn 関係式の拡張と知られていた参照測度を平衡 (Gibbs) 測度と固定し、対象測度を Fokker-Planck 方程式による拡散過程により時間発展させる Otto-Villani の手法を拡張し、参照測度側も、同じポテンシャル関数による Fokker-Planck 方程式で初期測度からの時間発展を取ることにより、新たな相対エントロピーの積分表示ならびにエントロピー・ギャップ公式を導く研究成果が学術論文をして、公表されたことは、これらを非可換版に発展させるという本研究の方向性は、妥当なものと判断される。 また、ランダム行列の調査研究に関しては当初予定では既存研究の調査を、主たる目標としていたが、成分間に相関のある場合や対角成分に摂動が加わったタイプに関して、そのスペクトルの極限分布に関するモーメントの揺らぎを厳密に与えることができたことは予定以上に得られた新たな知見であると考えられる。さらに、また、平成28年度にポーランドで開催された関連分野の国際シンポジウムでの招待講演として依頼を受けたことも本研究の重要性を示す一つの結果と判断される。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降の今後の研究実施計画に関しては、当初計画通りを予定している。現時点で特に、研究計画の変更をすべき事項あるいは研究遂行を遂行する上での大きな障害は発生してはいないと判断している。したがって、今後は、一般の非可換独立性に基づくエントロピーならびに Fisher 情報量の変形に向けて、変形独立性の場合について精査する。 特に、自由独立性の場合に、半円摂動の自由 Fisher 情報量が、適当な条件付き分散を用いて記述可能であったことから、変形独立性においても、対応する変形された Gauss 型確率変数による摂動が変形 Fisher 情報量の適当な部分環への条件付き期待値写像による作用素値条件付き分散として導入可能であるかの検討を行うこととする。これはすなわち自由独立性の場合に Voiculescu が導入した conjugate variable の一般の非可換独立性の場合への拡張に対応する重要な過程であると考えられる。 これら変形 Fisher 情報量と作用環論との関係に関しては、今年度の初秋からフランス・パリの Henri Poincare 研究所で予定されている量子情報理論に関する研究プロジェクトの一環として開催されるワークショップ等で最新の関連研究動向を調査することも重要であると考えている。このための旅費として本研究費を充てる予定である。また、今まで通り、本研究課題に関連する国内で開催される研究集会等での発表・出席にも本研究費からの支出を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度夏のポーランド科学アカデミー主催の非可換調和解析に関する国際研究集会での成果発表のための旅費に、本研究費の支出を予定していたが、当該外国出張に関してポーランドでの同研究会に出席ならびにドイツの関連研究者との研究討議の用務を続けて行うための外国旅費に充てることのできる別予算の手当が可能となった。このため、外国旅費として予定していた部分を、国内の関連研究集会への出席ならびに、関連研究者との研究討議に有効に使用することが可能となった。 また、平成28年11月に翌年にフランスにおける量子情報に関する研究プロジェクト開催のアナウンスもあったことから翌年のフランス渡航のための外国旅費に本研究費を充てることが重要であると判断したため一部を平成29年度の支出に回すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度の当初使用計画通りの助成金の使用に加えて、上述にあるように、平成29年初秋の渡仏に掛かる外国旅費として使用することにより、本研究課題の一層の進展に資するようにする。また、本研究課題に密接に関連する外国人研究者の来日の際の、専門的知識の供与に関しても、本研究費を活用し最新の研究情報の収集を図る予定でもある。
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