本研究課題の研究目的は、作用素環上で展開される非可換確率空間における独立性に呼応した非可換エントロピーならびに非可換フィシャー情報量の変形を調査することにより、量子変形エントロピーの本質に迫ることである。 変形独立性としては、自由独立性と通常独立性を補間するq-変形を中心的に扱った。変形分布に関する成果としては、q-Meixner分布族を持つ非可換確率変数を新たに B型 Fock 空間上で構成することに成功したことが挙げられる。また Fisher 情報量の変形に関しては、Fisher 情報量がスコア関数から導入可能であることより、自由独立性の下での Fokker-Planck 方程式の研究からドリフト項を与えるポテンシャルの微分が平衡分布のスコア関数であることに着目し、このポテンシャル関数による独立性対応の調査を行った。ポテンシャル関数に基づき、自由独立性での第2種ベータ分布ならびにそれらの変数変換で得られる F-分布や t-分布の導入にも成功した。さらに第1種ベータ分布やGamma 分布でも Gibbs ポテンシャルを介した独立性対応も確認され Fisher 情報量の独立性に呼応した変形を捉えることが可能となった。 さらに本研究課題から派生して、自由独立性の漸近モデルとして重要なランダム行列に関する研究も行い、成分間に相関のある場合や対角成分に摂動が加わったランダム行列のスペクトル極限分布のゆらぎを厳密に与えた。加えてそれらの統計的データ解析(時系列解析ARMAモデル)への応用へと発展させることにも成功した。 令和元年度では、本研究課題の総括を行うと共に、本科研費により支援された非可換確率論ならびにランダム行列に関する研究成果報告を含むワークショップを開催し、外国人研究者も交えた関連研究者と今後の研究の方向性について討議した。
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