量子代数の構造は、その自由度が有限であるか無限であるかで大きく異なるのであるが、その解析においては、なお有限自由度の場合の様々な具体的計算が重要である。今年度は、その中でも、von Neumann に由来する正準量子代数の射影元の意味を明らかにした。元々、von Neumann の射影元は、特別な形をしたガウス関数に伴うもので、正準量子代数の極小射影を与えるものになっている。このことは、射影元をフォック表現の場合に具体的に計算すれば、真空ベクトルへの一次元射影に他ならないという事実とも符合している。 今回新たに得たことは、この von Neumann の射影元を含む形で正準量子代数の行列単位を構成することができた点。さらに、こうして得られた行列単位から生成されたC*環が正準量子代数の生成するC*環と一致するということ。 この正準量子C*環がコンパクト作用素環であることは、専門家の間では常識といっていいものではあるが、その生成元としての行列単位を具体的に構成した点は、それに関連した様々な計算手法を見通しよくするものである。 その構成方法であるが、たたみ込み積による量子代数の表示において、Weyl の与えたユニタリ―元をデルタ関数的にあるいは作用素環における multiplier algebra の元として付加し、さらにガウス関数の解析性を利用してWeyl ユニタリ―のパラメータに関する複素正則部分と反正則部分に分解することで、von Neumann の射影元を coherent ベクトルを使った階数1作用素に 値を取るように複素正則的な拡張が存在することを示す。こうすることで、求める行列単位が複素パラメータについてのテイラー係数として実現されることがわかる。
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