平成28年度は主に、離散群の代数学的構造の研究に対する関数解析学の応用について研究をした。離散群(あるいは単に群と呼ばれる)は現代数学における最も基本的な研究対象である。離散群の代数学的構造はとてもしっかりとしたもので、摂動などを行う際に大きく影響を受ける可能性がある。離散群はそもそも代数学的な数学対象であるが、ある種の摂動に対して安定的な解析学的構造を見出し、それを梃子として代数学的構造の研究を勧めるのがこの計画の目的であった。具体的にはパリ高等師範学校のエルシュラー教授との共同研究で、与えられた離散群がいつ無限巡回群を因子として持つ有限指数部分群を含むかを考察し、その十分条件をランダム・ウォークの言葉で記述することに成功した。無限巡回群を因子として持つという性質は離散群の構造研究に大きな役割を果たすが、あまり安定的ではない。本研究において、そのような有限指数部分群を含むという性質がランダム・ウォークに関してある意味安定的であるということを示した。この手法は離散群がある意味で小さく、ランダム・ウォークがあまり拡散的でないときに特に有効である。ランダム・ウォークといった解析学的、確率論的手法が離散群の代数学的研究に役立つということは興味深い発見であり、こうした手法の今後の発展が期待される。平成28年度はそのほかにも離散群と測度空間への群作用やそこから構成されるフォンノイマン環の研究、離散群の概表現の研究等を行った。
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