本研究では、これまで反正則力学系のパラメータ空間における「波打った」現象について主に研究してきた。1点に収束しない外射線の存在や、「へその緒」が1点に収束しないことを用いて自己相似性が成り立たないことなど、Mandelbrot集合では見られない、正則力学系族の2次元以上のパラメータ空間特有の現象を、反正則力学系に制限することで部分的にとはいえ捉えることに成功した。 最終年度では、分岐測度の台(Misiurewiczなパラメータ集合の閉包に一致する)は全ての臨界点がactiveなパラメータ集合の真部分集合であるが、その差、つまり全ての臨界点がactiveだが、Misiurewiczなもので近似できない力学系について調べた。放物-吸引的な周期点を持つ例があることは容易にわかるが、他には知られていなかった。Mukherjee氏(Stony Brook大)と共同で、放物-吸引的でない放物的不動点を持つ反正則2次多項式で、このような例が存在することを示した。これは反正則2次多項式族の中では自明な結果であるが、一方で、この族を含む更に大きな族である(正則)4次多項式族や双2次多項式族の中でも近似できない、ということは非自明で新しい結果である。これまでの研究は反正則な族の中で閉じていたが、今回の結果はそれを含む正則な族についての結果であり、本来の目的である2次元以上のパラメータ空間の理解への大きな一歩であると言えよう。 分岐測度については近似的に計算が可能であり、またこのような例がどこに位置しているかも数値的に見ることは容易なので、その周辺だけをより高精度で計算することで、これまで開発してきたVR可視化システムで実際に観察することができる筈であり、現在計算を進めている。今回の結果は、数学的な結果をVRで可視化することで初めて観察し理解することができる、最初の例となると考えている。
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