研究課題/領域番号 |
26400118
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
吉野 正史 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00145658)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | ボレル総和法 / parametric Borel sum / ハミルトン系 / 非可積分性 / モノドロミー |
研究実績の概要 |
本年度の研究実績は以下のとおりである. (1) 1階の偏微分方程式に対する parametric Borel総和法に対して前年度に得た結果を不確定特異点をもつ場合に拡張した.(2) 合流型大久保方程式でハミルトン系に表示できるものおよびそれの非線形摂動であるハミルトン系に対して,不確定特異点あるいは確定特異点の近傍でのモノドロミーを具体的に計算した.また,不確定特異点が2つ以上あるような線形合流型大久保系に対して,すべての不確定特異点でのモノドロミーを計算した.参考文献: Monodromy of confluent hypergeometric system of Okubo type, RIMS Kokyuroku Bessatsu B57 (2016), 281-296. (3) 広島大学数理解析セミナーで,通年で定期的に講演会を開催して,講演者と研究討論を行った.詳細は広島大学数学専攻のホームページで公開されている.(4) 2016年3月に広島大学で「複素領域の微分方程式、漸近解析とその周辺」の研究集会を開催し,研究討論を行った.詳細は,広島大学数学専攻内の吉野のホームページで公開されている.(5) 国立環境研究所の田中喜成主任研究員と環境リスク評価モデルへの漸近解析理論の応用を行い,進化型3種捕食系を中心に研究した.特に,ボレル総和法との関係を中心に研究した.(6) 2015年9月に,ポーランドのBanach center で開催された研究集会でボレル総和法に関する招待講演をおこなった.(7) 久留米工科大学の佐々木良勝氏と合流型大久保方程式の非線形摂動で特異点が2つあるような場合に,大域的な非可積分性と局所的な可積分性が同時に成立するような例を構成した.この例は研究を継続する.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究テーマは(1)接続情報の計算と非可積分性への応用.(2) Todor Gramchev氏と無限次元可積分系や非線形シュレディンガー方程式の特異性の研究. (3)生態系への応用として,環境破壊による生態系の機能評価モデルの構築であった.(1)については,合流型大久保方程式のうちハミルトン表示を持つクラスに対して,不確定特異点でのモノドロミーの計算,および非線形摂動であるハミルトン系に対して,不確定特異点でのモノドロミーを計算できた.これらの結果は論文として投稿して受理された.つぎに,合流操作で不確定特異点が2つある場合の線形合流型大久保系のうちハミルトン系に表せるものにたいして,その不確定特異点でのモノドロミーを計算した.この結果は論文を投稿中である.合流型大久保系の非線形摂動のハミルトン系の非可積分性の研究に関しては,不確定特異点が2つある場合に大域的に非可積分であるが,局所的に可積分であるようなハミルトン系の例を構成した.従って,(1)に関しては予定したより大きな成果がえられた.(2)に関しては,共同研究は吉野が中心になって実行した.単独で無限次元可積分系についてKAM理論に関係した研究結果を整理した.(3)に関しては,研究の途中で大きな問題がおこり,これを克服するため,parametric Borel 総和法を用いて理論を再構成している.これは,翌年度に継続して実行する予定である.その他,ポーランドで非線形Klein-Gordon方程式の爆発現象を研究している研究者から共同研究の申し出があり,共同研究を開始した.従って,不測の事態により研究計画の変更があったが,研究はおおむね順調に進捗していると判断する.
|
今後の研究の推進方策 |
(2)の共同研究は都合により吉野が中心に行う.他方,現在までの進捗状況で述べたように,ポーランドの数理物理の若手研究者から共同研究の申し出があり,爆発現象の共同研究を開始した.これは,(1)の成果の新しい方向への展開として実行する予定である.(1)のモノドロミーの計算では,予想以上の進展があったため,さらに進んでEmden 方程式や非線形波動方程式の動く特異点の研究を進め,これを数理物理の方程式の爆発現象へ応用することを共同研究でおこなう.共同研究に関しては,これ以外のテーマを相手から提案されているので,それらについても柔軟に対応して研究を進めたい.また,非可積分性に関しては,予想以上の進展があったので,引き続き研究を継続して,前年度の成果を発展させ論文として投稿する計画である.また,ボレル総和法と非可積分性の関係も新しい問題として研究を開始する.これは前年度までの研究のなかで新しく得られた知見である.(3)に関しては,ボレル総和法を適用して当面する問題を克服する見通しである.その先の理論展開に関しても見通しをつけ,論文としてまとめることを目的とする.これらの研究で,ボレル総和法の理論を生態系の問題に適用可能であるように拡張する必要性があり,これについても引き続き研究を進める.具体的に,確定型方程式に対するボレル総和法の理論を整備して,これを(3)の研究に生かす点までは実行する.この際,広島大学の若手の大学院生も同様のテーマを研究しており,共同研究も視野に入れて効率的に研究を進める.その他,ボレル総和法に関して,芝浦工大の山澤氏とボレル総和法に関するいくつかの問題について共同研究を進める予定にしている.
|
次年度使用額が生じた理由 |
T. Gramchev 氏と共同研究を実施するため,旅費を科研費負担でイタリア訪問を計画していたが,これは同氏の都合により取りやめた.他方,フィリピンでのボレル総和法等の国際会議に参加したため,その旅費が新規に必要になった.そのため,使用額に差が出た.
|
次年度使用額の使用計画 |
8月に能登で開催される函数方程式セミナーに参加して,講演と研究連絡を予定している.その費用に剰余金を充てる.それ以外の費用は研究計画に沿って支出する.具体的には,雑誌の購入,書籍の購入,数理研での研究会の参加の旅費,学会参加・研究連絡での旅費,熊本大学でのアクセサリーパラメータ研究会参加の旅費,広島大学での複素解析セミナーへの招へいと研究連絡の旅費,田中氏との共同研究のための旅費,購入して8年目になり,来年にOSのサポート切れが予定されているノートパソコンの更新などを計画している.
|