本研究はランダムなシュレディンガー作用素に関する様々な問題に確率論的立場から取り組むことを目的としている。本年度はまず7月23日から28日までカナダのモントリオールで開かれた第19回国際数理物理学会に参加して最近の数理物理学の動向について情報取集を行った。 1月9日から11日には本研究代表者の所属する京都大学大学院人間・環境学研究科において 研究集会「ランダム作用素のスペクトルと関連する話題」を開きランダム作用素の専門的研究について情報交換を行った。 研究成果が特にあがった課題は Fredholm 行列式を用いて定義されるあるランダム点配置のクラスに対して各点配置のまわりにポテンシャルを置いて定義されるランダムシュレディンガー作用素の累積状態密度関数のスペクトル下限における挙動の研究である。この研究に関して特に関心が高い場合はランダム点配置としてGinibre点配置とサインカーネルから定まる点配置を取る場合であるが、各点配置の周りのポテンシャルがコンパクトな 台をもつ場合について、サインカーネルの場合を含んで配位空間が1次元の場合にはホールプロバビリティの挙動で累積状態密度関数の挙動の主要項が決まり、Ginibre点配置の場合を含んで配位空間が2次元の場合にはホールプロバビリティの挙動で累積状態密度関数の挙動のオーダーが決まることが示せた。 以上の結果は6月9日に学習院大学で開かれたスペクトルセミナーと12月21日に京都大学数理解析研究所で開かれた研究集会「スペクトル散乱理論とその周辺」で口頭発表し、更に論文を2月に学術雑誌 Kyushu Journal of Mathematics で発表した。
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