研究実績の概要 |
本研究は精密なモンテカルロ積分を実現するための理論と実践を目的としている.モンテカルロ積分は,大数の法則に基づき,普通,独立同分布(i.i.d.)確率変数列のサンプル平均を計算することでその平均値を推定する.しかし,どの疑似乱数も理論的に不完全なので,現状ではi.i.d.サンプリングによる厳密なモンテカルロ積分は実行不可能である. しかし大数の法則がi.i.d.確率変数列でもなくても,もっと緩い条件---対独立性---の下でも成り立つことに注目すれば厳密なモンテカルロ積分は実行可能である.それを実現したのがランダム・ワイル・サンプリング(RWS)であった.本研究ではRWSを拡張したk-対独立同分布(k-i.i.d.)確率変数列による新しいサンプリング法を開発した.ここで,k-対独立とは,任意のk項が独立であり,k+1項は必ずしも独立でないことをいう.RWSは2-i.i.d.確率変数列を生成する.k-i.i.d.確率変数列によるモンテカルロ積分ではサンプル平均のk次モーメントまで精密に計算できる.k=3,4,...のときのk-i.i.d.確率変数列の構成については有限体を用いる方法やM.Dietzfelbingerの方法が知られていたが,本研究の方法の方がずっとサンプル生成効率が良い. 平成29年度(最終年度)においては,RWSと3-i.i.d.確率変数列に関して,大数の法則の収束速さの比較を被積分関数を変えながら比較した.大まかに言えば,被積分関数が滑らかだと,これらの方法はi.i.d.の場合よりも平均の収束が早い.そして被積分関数が複雑になればなるほどi.i.d.を超える有利性は減少する.しかし4-i.i.d.確率変数列では,収束速度は,どのような被積分関数に対しても.ほぼi.i.d.の場合と同様の中心極限定理の様相を見せる.以上の結果は論文発表する予定である.
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